逃げる場所ならそこにある
別に勿論彼が悪いだとか、そういうことを言うつもりはなかった。なかったし、これからも冗談でも言うつもりはなかったのだけれども、隣には記憶を失って自分についてくると宣言してくれたおっぱいの大きな美女がいたというのにどうしてこの男の方に来てしまったのだろうなあ、と人類の希望とされてしまった少年は考える。このよくわからない塔に、夢か現実かも分からないところに閉じ込められて既に七日以上は経過していた。していたが結局其処から脱出出来ないということはなく、恐らく現実の方で眠るとこちらへ来る、という形に収まったらしかった。
その、中で。
拘束のための器具は多くあったし困ることはしなかった。きっとそんなものを使わなくても彼は逃げることもしなかっただろうけれど、あった方が絵面的に興奮する。メルセデスもまた残っていたから、時折お願い≠ニいう形でこれを見学してもらっていた。彼女的には何かしら気になることがあるようだったが、やっぱり記憶は戻らないらしい。今日はいない、けれども。基本的に彼女は少年が呼ぶことがなければ違う部屋にいたりこの塔を探検したりしている。
という訳で今、牢獄の中には二人きりだった。ベッドの上に寝転がりたい気分はあったけれども此処の簡素すぎるベッドに男が二人で乗ったらどうなるのか考えたくはない。じゃり、と錆びついた手錠が音を立てた。少年の腹の上で、彼は苦悶の表情を浮かべている。
「苦しい?」
子供のような問いかけだな、と思った。別に自分のことを大人とも子供とも思ったことはなかったけれど。
騎乗位というのは受け容れる側にひどく負担が掛かると聞く。聞いたことがあるだけで勿論少年自身が経験した訳ではないのでそれが本当かどうか怪しかったけれど、この表情をみる限りきっと苦しいのだろう。
「…苦しく、など」
けれども彼はそう答えるから。
「そう。じゃあ、動いてよ」
もう初めてじゃないんだし、何度も繰り返してるんだし、大丈夫でしょ? と言えば、ゆるゆると、つらそうな表情のまま腰が動き出した。
どうしてこうなったのかと問えば、当初七日と言っていたイベント(イベント)をクリアしたにも関わらず、少年の魂はこの塔に囚われたままになってしまったからであった。少年を呼び寄せた張本人にも原因が分からず、しかし現実にはちゃんと戻れるようにはなったのでそのままにしている、というのが現状だ。だから眠りに就けば此処に訪れるという生活を続けていたのだが、イベントが終わってしまえばクエストが発生することもなく、ただ亡者のような呻きに耳を傾けるしかやることがない。
―――暇だなあ、岩窟王。
そう呟いたのには他意はなく、
―――ねえ、君が僕の相手をしてよ。
考えて続けた言葉には他意があった。
青白い顔に赤みがさしている。それを見るだけでなかなか役得だなあ、と思ってしまう。鎖の音がする。錆びついた、死の音。
「岩窟王はセックス好き?」
ゆるゆると動き続ける彼の腰をとんとん、と叩くと仕方がない、と言わんばかりに動きが早められる。
「…何を、戯けたことを」
「嫌なの?」
「ああ、嫌だ。最低だ。お前なんぞに犯されている事実を認識すると眩暈さえする」
セックスの時の彼はとても静かだ。イベントが終わったからかもしれない。ええ、そうなの、とのんびりした声を出した少年は、それに続けるようにきもちいいよ、と言った。
「逆に、…ッなぜ、お前はオレがそんなものを、好むと、思った」
「ええ、だって逃げることが出来るんじゃなかったの」
「誰、がだ…」
「君が」
主導権が自分にある時、人は意識的だろうと無意識だろうといいところを外すという。これじゃあずっとこのままだな、と思って腰を掴むと、まて話が違う、と言わんばかりに鎖が喚いた。それを無視して上下させれば、先ほどまで上がらなかった類のかすれ声が聞こえるようになる。
「僕の知っている君は本当にさわりだけだけれども、この塔からさっさと抜けだして復讐を完遂したんだと思っていたんだけれど。違うのかな?」
「だから…ッ、それは、物語だと…ッ」
「でも、逃げたことは本当なんでしょう?」
ガクガクと震えた彼に、出なかったね、と言えば睨まれた。
「逃げないの?」
「…いま、さら」
「じゃあ前、どうして欲しい?」
「………さわれ」
ひどい問答だ、猿芝居だ、それでも分かって付き合ってくれる彼は、一体どうしてなのだろうか。分からないまま彼のものに手を伸ばす。その途中であとで多分、僕のこともイカせてくれるんだろうなあ、とくだらないことを考えていた。
「そういう感じで岩窟王と僕ってなんなんだろう、って思ってさ。あ、マシュ、今のはセクハラじゃないからね? ただ一般的な意見を聞いてみたかっただけで」
先輩、と慕ってくれるこのサーヴァントに蔑むような目線で見られたら流石に心が折れる自信があった。
「先輩」
マシュが真面目な顔で、怖いともとれる顔で言う。
「このカルデアに、そのようなサーヴァントはいません」
それに少年は笑顔で返す。
「知ってるよ」