NOと言える日本人になろう

 佐竹・涼暮・根古



 いろいろ言いたいことはあった。鍵は掛けておけとか、人の部屋に行くことを宣言するなとか、彼氏が登場したのだからその手を止めろとか、そもそも付き合ってもいない―――というかともだち≠ノ対してそんなことをするな、とか。挿し入れられたままの指がこの短期間で慣らされた場所を丁寧に刺激するものだから、この部屋、涼暮の寮室に根古が現れたというのに声が出そうになる。それを必死で押し殺しながら佐竹に手を伸ばしても、空いている方の手で退けられるばかりで。
「………浮気」
やっとのことで根古が発した言葉は思っていた以上に冷たかった。
「指と時々玩具しか使ってねーからセーフじゃん!?」
そういう問題じゃない。
「そもそも何でこうなってんの」
「あー、えっと、涼暮くんがアルファだったから」
「えっ。涼暮ってアルファなの」
ベータと思われているのは知っているが、こうして面と向かって言われるのは少々複雑な気分になる。
 しかしながらそんな涼暮のことは置いて、二人はこうなった経緯について話していた。
「でもやっぱ嘘だったよねえ。涼暮くん、俺がここまでしたのにアルファのまんまなんだもん」
「ふーん。やっぱ噂は噂だったってことか」
よいしょ、と根古がベッドに腰掛ける。どうして誰も彼も勝手に人のベッドを使うのだろう。
「ねー、涼暮」
佐竹に半ば押し潰された形の涼暮を根古が覗き込む。
「な、に…」
「これが佐竹の独断でまあお前が流されたっていうのは分かってるし、ぶっちゃけ力で佐竹に敵う訳ないって思ってるけどさ、ちょっとくらい罪悪感あんだろ」
「それは、その…」
「ならさ、」
 顎の下に指が差し込まれて、ぐい、と顔を上げさせられた。根古の顔が目に入る。
 根古は笑っていた。うっすらと、面白いこと―――この場合は多分涼暮にとって良くないことを思いついたような顔で。
「その罪悪感はらしてよ」
 そこで、本当は拒絶の言葉を吐かなくてはいけなかったのに。
「はい、佐竹場所交代」
「はーい」
「えっ」
「ほら、涼暮ケツ上げて」
「ちょっと待ってなにやだ」
「佐竹はよくてオレはだめなの」
「そうじゃなくて、そうじゃなくてともだちはそういうことしない」
「さっきまでしてたくせに?」
「あー涼暮くん萎えちゃってるか、やっぱ」
「じゃー佐竹はそっちやって」
「まって、ちょっと、話、」
「泥棒猫って罵られたくなかったら大人しくしててね」
「多分しゃむにゃんの方がえっぐいから大人しくしてた方が身のためだよ」
 交互にテンポよく発される言葉に、涼暮が抵抗する隙があるかと言うと、ないのだった。



うそかまことかひょうたんか

 佐竹・涼暮



 佐竹にアルファだと伝えてから数日後のことだった。来ちゃった、と今度はそれが確かに部屋への来訪のことを指していることを確認して招き入れる。最早佐竹が涼暮の部屋に来るのは仕方がないこと、となっていた。とりあえず涼暮の中では。何がそんなに勝手が良いのかは分からないけれど。
「こないだはなんか、ごめんね?」
大丈夫だった? と佐竹がまだ傷の残る太腿を撫でてくる。
「別に。大丈夫。これくらい」
だから触るな、と跳ね除けようとした手は、そのまま佐竹の手に包まれた。
「佐竹?」
「あのね、涼暮くん、考えたんだけど」
 俺、発情期来ちゃった時に行けるところ、やっぱ涼暮くんのとこしかないんだよね。
 何を言っているのかさっぱりだった。
「しゃむにゃんは、ほら、そういうので番になってほしい訳じゃないしさ、俺が泊まれる寮の人って殆どアルファなんだよね」
「…なんだっけ、前に言ってた空鳴、先輩は」
「空鳴先輩もアルファだよ」
「そう、なの」
「だからさ、やっぱり涼暮くんのとこしかないわけ」
 でもねえ、と手を握ったまま佐竹は続ける。
「それはさ、涼暮くんのことベータだって思ってたからで」
「じゃあ他に泊まれるとこ作れよ。お前ならすぐなんかこう…ともだちになれるだろ」
「なれるけどね、それってさあ、どんどん浅くなってくみたいで、嫌じゃん?」
何が嫌なのか分からない。
「だからさ、俺としてはこれからも涼暮くんのとこに来たい訳。でも、こないだみたいに涼暮くんが自傷行為までして抑えてくれるってのは、別にーなんだよね」
「………ああでもしなきゃ、お前を噛んでた」
「そーだね。だからさ」
こっち、と誘(いざな)われたのはベッドの方向。なんでまるで家主のように先導するのだろう。此処は涼暮の部屋であるはずなのに。
「試してみない?」
 何を? と聞くのは自殺行為な気がした。それを見透かしたかのように佐竹は続ける。
「アルファが、アルファじゃなくなる方法」
「…そんなの、噂だろ」
「うん、そーね、噂。ラブホのシャンプーには避妊効果があるらしいってくらいの噂」
「え、そうなの」
「だから噂だって」
涼暮くんてホント童貞だよね、と言われてもそれは別に涼暮の所為じゃないような気がしたので放っておくことにした。
「ね、聞いたことくらいあるでしょ?」
 どうして涼暮は自分の部屋で、自分のベッドで、佐竹に押し倒されているのだろう。
「メスイキ、って言っても涼暮くんにはよく分かんないだろうから、ざっくり説明するとね、女性が性的に興奮した時にいろいろあって子宮を収縮させる訳だけど、それと同じような感じで前立腺が収縮して射精をするってことね」
「佐竹、俺は今何でその説明をされているのかが分からない」
「涼暮くん、往生際悪いよ?」
 一時期、噂があったにはあったのだ。男性のアルファがメスイキするとオメガに身体が造り変わる=\――勿論そんなのは噂であっていろんなテレビが科学的な根拠はないとしてお茶の間を賑わせていたことには記憶に新しい。
「でも、試してみる価値はあるじゃん?」
「いや、だってお前根古」
「前立腺を刺激すれば良いだけだからさ、まあ指だけでもなんとかなるんじゃない?」
俺だって別に、友達を襲うような見境なしな訳じゃないし、紗霧の制裁怖いし。にやにやと笑う佐竹に返す言葉が見つからなくて、佐竹はそれを了承と取るよ、と言った。
「大丈夫だよ、唇にキスはしないから」
 それは大丈夫の部類に入るのか、と思いながらも佐竹の力には敵わないしそもそも抵抗の仕方など知らない訳で。フェロモンに目が眩んだアルファのように項を噛んでくる佐竹に、力なくばかじゃねえの、と言うことしか出来なかった。