透明の箱
どうして、と思う。
そういう世界だとは知っていた、すぐ隣に犯罪者がいるような世界。犯罪に手を染めれば染めただけ、そういう世界は迫ってくる。というか、足を踏み入れることになる。分かっていた、でも、それくらいしか道がなくて。病気の母にはそんなことさせられなかった、だから、わたしが動くしか、なくて。
―――でも、
その考えも甘かったのだろうか。わたしは、傷付く準備もしていたはずだった。初めて失敗して殴られた日に、ああ、こんなものなのか、と思ってしまったからだろうか。かみさまだとか、そういうものが、わたしには罰が足りない、と思ったのだろうか。
「はー…、せっま、」
わたしの上で、男が言う。わたしの喉は、絶えず悲鳴を上げているのに、男はそれすらも楽しそうに貪る。
シックス、と呼ばれているのは知っていた。
この男が他の取引で渡すものを、横から掠め取るのがわたしの仕事だった。取引に来るのはわたしと同じくらいのこどもらしかったから、掠め取る、というよりも成りすましてもらってくる、の方が正しい、かもしれない。でも、そんなにうまくいくわけがなかったのだ。わたしはニセモノとすぐにバレて、この男に捕まった。殺されてしまうだろうか、と不安になる。死ぬのは嫌だったし、わたしが死んでしまったら母は一人きりになってしまう。でも、怖くてこわくて、命乞いも真面に出来ないで。
そんなわたしを、正式な取引の終わった男は何処かの建物に連れ込んだ。ホテル、だろうか。この辺りはマンションもホテルもあちこちに建っているから分からない。言葉も出ないまま怯えているわたしをベッドに放り投げると、男はそのまま覆いかぶさってきた。
―――何、が、
起こっているのか、全然分からない。服は剥ぎ取られ、あちこち舐められたり噛まれたりするのが怖くてたまらない。大人が、こういうことをするのは知っていた。ときどきこどもでもいい、というひとがいるのも聞いたことはあった。でも―――でも、なんで、どうして、わたしが。涙がぼろぼろ出て、悲鳴も出て、でも男は楽しそうに笑うだけ。誰にも触れられたことのない場所を好き勝手にされて、いま、わたしのなかには男のものが埋まっていた。ぎちぎち、と無理矢理に埋め込んだそれが痛くてたまらない。
「ぁ、っ、………だ、ぁ、あ、」
繋がっているところから、身体がまっぷたつになってしまいそうだった。
「指とか、いれたこと、なかったの?」
「ぅ、え………ッ」
あまりの圧迫感に吐き気がする。頬を張られて、質問に答えるように言われる。
「な、なぃ、れ、す…っ」
「へえ、そうなんだあ…」
その間にも男は腰を揺すぶって、もっと奥へ奥へと進んでくる。強引なその動きにまたわたしは悲鳴を上げて、それが男の腰を打ち付ける音と合わさって、最低なハーモニーになっている。
「はー………」
涙でぐちゃぐちゃになった顔に、何度も何度もキスが降ってくる。それだけが妙にやさしくて、痛みに痺れた下半身が自分のものじゃあないみたいで。
「泣いてる子を抱くのは最高に楽しいよ」
そう言いながら、男は腰を止めない。もう、痛みは麻痺したようになって、頭がちゃんと働かない。
「ほら、もっと泣いて?」
男が繋がっている近くを丁寧になぞると、痛みの所為じゃない痺れが生まれた。でも、なんなのか分からない。よりいっそう泣き叫ぶわたしに、男はにこにこと笑うばかり。
「そうそう、痛いし怖いね…なのに気持ちよくってたまらないね」
気持ちいい、なんて、あるわけがないのに。痺れがどんどん身体中をかけめぐってどうしようもなくなる。目の前が真っ白になった瞬間、ぴん、と足が伸びて、それからぐったり、と力が抜けた。
「はは…締め付け最高…」
なのに、男は止まらない。ぐちゃぐちゃ、という音がしている。繋がっているところから。
「ね、すっごい濡れてきた」
何の音? わたしの音? 濡れたって、どうして?
「きみが気持ちよくなってる証拠だよ…きゅうきゅう俺に甘えて、はは、馬鹿みてー…」
気持ちよくなんてなってない、痛くて、怖くて、たまらないだけなのに。身体がびくびくと跳ねる、これは、何? どうして頭がふわふわするの、どうして身体の中をめちゃくちゃにされてるのに、もっとしてほしい、なんて思うの。
痺れが、どんどん甘いものになっていく。ふわふわと、わたしのコントロールを離れる。
「ぁっ! あっ! ぃや、ぁ、っやら、なんか、ゃ―――」
痛いはずなのに、出た声は痛そうでもなんでもなくて。
「ねえ、またイっちゃう? 名前も知らないような男に好き勝手されて、処女奪われて、ぐちゃぐちゃにされて、イっちゃう?」
イくって、なんだろう。さっきの目の前が真っ白になるような感覚だろうか。あれは、あれは嫌だ。首を振る。それはちゃんと仕草になっていたらしい。
「いいよ、イきなよ、ほら、イけってば」
「あっ! ぁあ、っや、くる、なんかきちゃうぅ、」
「だから大人しくイきなって」
「ゃらああっ! ぃやっ、あっ、ゃら、こわい、い…っ!」
「ははっ! 怖いくせに腰がくがくさせて…嘘吐きだねー…」
世界が、真っ白に、なって。
「ぁ―――〜〜〜…っ」
ちかちか、と光が消えなくて。
「はは、」
また、キスが降ってくる。
「まだ終わんねーから、頑張ってね?」
男の言葉に、わたしは。何を返すことも出来ずに、ただ、涙を溢れさせた。