物語なんかにしてやらない



 あんまり暴れると落ちるかもしれませんよ。
 そうやって言葉にするだけで、面白いように抵抗が止んだ。此処はソファの上、確かに狭いが、逃げるだけなら落ちたって構わないだろうに。
「………スリー、さん」
「はい」
「どうして、と…それは、訊ねたら答えがもらえるものですか」
彼女の頭の中で、一体どういう理論が展開されているのか分からない。この行動にどんな理由があったのだとしても、彼女がこれから陵辱されることには変わりがないと思うのだけれど。…そう、陵辱だった。少なくとも、スリーにはその自覚があった。
「答えて、ボクに何のメリットがあるんです?」
「………答えてもらえない、ということですか」
「さあ、どうでしょうね」
これから起こることを分かっていない訳がないだろうに、彼女はスリーを見上げることをやめない。
 理由を聞いて、本当にどうするつもりだろう。スリーが本当のことを言うとも限らないのに。それとも、聞けば少しでも心構えが出来るのだろうか。
―――そうだったら、
嫌だな、と思った。彼女には何も分からないまま、翻弄されていて欲しい。
「きみがいけないんですよ」
答えのつもりで首筋にキスを落とす。
「ボクを煽るから」
 その言葉に、彼女は一瞬、訳が分からない、という顔をした。彼女は煽っているつもなどないのだろう、それくらいは理解している。でも、だからと言って止まれるはずもない。両手首は頭上に拘束してある、落下の可能性を告げてから、大きく動かれることはない。それでもこれ以上抵抗されないように、強く―――強く、押さえつけて、その口腔内を味わった。

 否定の言葉を幾ら聞いても、結局すべてが興奮へとすげ変わった。彼女の方も、身体はちゃんと反応するのか、必死で首を振りながら唇を噛み締めている。声を聞きたい気持ちは当然あったが、そう最初からすべて、というのは強欲だろう。そう思いながら、そろそろ解れたそこに自身を充てがう。
「………は、っ…ぅ、あ、」
「…ボク、別にそこまで大きい訳じゃあないと思うんですけど」
「ん、ぅ、う…っ、う、」
「挿りますかね、これ」
ずる、と擦り付ける度、怯えるように締まる。十二分に慣らしたつもりではあるが、もともと狭いのか、指ですらきつさを感じていたのは事実だ。
「まあ、挿るところまでやってみますか…」
「ふ、ぅ、…っ、ぅ、」
それでも。
 ここまで来て挿れない、なんてことは出来ない。いざとなればローションもあるし、ゆっくりすればそのうち身体はついてくるだろう。その反応に引きずられるように心もついてくればもう言うことはなかったけれど、そこまで望むにはこの行為は性急すぎる。
「挿れますから、ゆっくり、息を吐いて」
「ぁ、あ………」
絶望的な声に大丈夫ですよ、と宥めるような言葉をかけながら、ゆっくり腰を推し進める。痛みは、ないようだった。けれども苦しいのか、その瞳には涙が浮かんでいる。…彼女だってマフィアだ、尊厳を削り取られるようなおこないをされたからと言って、そう簡単に泣けるようには出来ていない。だから、これはきっと、生理的なものだった。身体を内側から押し拡げられるような、そんな違和感に押し出された涙だ。
「ひ、ぁ―――」
「…もう、今はこれ以上無理ですかね」
「ぁ、や、…っ、あ、」
「分かりますか?」
こつこつ、と細かく揺らしてやると、ぼろ、と涙が落ちた。
「子宮まで届いてる」
「―――、」
「きみのなかも、ほら、ボクを飲み込みたくて必死でこんなに濡らして………本当に、ひとを煽るのがうまい」
結合部の隙間から、掻き出されるようにあふれたそれを指で掬い上げる。そしてその粘ついたようすを見せつければ、羞恥だろう、一気に頬が赤く染まった。その反応があまりにも可愛らしくて、もっと赤くなればいい、と抜き差しを続ける。
「やっ………」
 徐々に、反応も変わってきた。唇を噛み締める余力もないらしい。
「ゃだっ、…っや、らぁ…ッ」
びく、と彼女の腰が揺れたのを、見逃してやるほどお人好しではなかった。好きな場所が分かれば、とは思っていたけれど、まさかこんなに簡単に見つかるなんてな、と思う。
「…嫌、なようには聞こえませんけどね」
ここまで来たら、もう彼女は逃げないだろうけれど。これが終わって、逃げられてしまったら元も子もないのだ。そんなことを考えながら、殆ど着たままの服のポケットから薬を取り出す。
 そして、口に含んでから彼女に接吻けた。
「ん、んぅ、っ」
呼吸も何処か儘ならなさに怯えている彼女は、思っていたよりも簡単にそれを飲み込んでくれる。
「ぇ、あ、すり、さ…なに、を…」
「なんでしょうね?」
本当に分かっていない訳ではないだろうに。スリーが偽薬効果でも狙うと思っているのだろうか。もしそうなら、それはひどい―――期待だ。
「きみがもっと素直になれるように、ちょっとした手伝いをしただけですよ」
「そんな、の…」
「ボクはきみに素直になって欲しいので」
光の角度の所為か、彼女の瞳が傷付いたみたいにみえた。…こんなことで傷付いてくれるのなら、それはかなり、スリーにとって都合が良いように思えるけれど。
「………ぁ、っ」
 薬は即効性だ、明らかに体温の上がった彼女が苦しそうに目を閉じる。
「ん、ぁ…」
「ふふ、」
彼女よりかは少なかったけれど、口移しなんて方法をとったから、スリーにだって効果は表れていた。今、耐えているのは微量であったからと、心構えが出来ていたから、ただそれだけの理由でしかない。
「腰、揺れてますよ」
「…ンッ―――、」
「ほら、首に手を回して良いですから」
ゆるり、と目が開けられて、それから焦点の合っていない瞳がスリーを映した。流石にずっとこうであってくれるとは思わなかったが、このぼんやりしている間に事を進めてしまいたい。
「ね? こっちの方が楽でしょう?」
「ぁ、………」
解放してやった手が、首へと伸びてくる。言われたとおりにするのは、そちらの方が楽だからか。
 身を守るように縮こまる彼女を、抱きかかえるようにして。
「ちゃんとついてきてくださいね?」
「―――〜〜〜ッ!?」
ず、と奥を突いた。
「あっ、あっ、や、やら、っ」
「はは、なか、きゅうきゅう言ってる…」
「ゃっ、やあ…ッ、ちが、ちがぅ、う、」
なかは少しずつ解れてきている。今日は無理でも、続ければ全部挿るようになるだろう。それまで、彼女を手放す気はなかった。…それを、達成したとして、手放すつもりがあるのか、と問われれば、答えはノーだったけれど。
「きもちいいでしょう?」
スリーの思考など知らない彼女は、望みもしない嬌声を上げることしか出来ない。
「…っ、き、きもちく、な、ぁっ、ああっ」
ぎゅう、と強く目が瞑られて、彼女が達したのが分かった。それでも尚、いや、いや、と言葉は続く。違う、と小さく首が振られれる。
 でも、それと同時に。
 この首に縋られた手を離すこともされないのだから。とりあえず今日は、その必死さをじっくり味わっておこうと、そんなことを思った。



小鳥のかご



 もう声も上がらないようだった。まあ、それだけ好き勝手に弄んだのだから当然か、と思う。
「―――」
焦点の合わない瞳、ネクタイで拘束された手首。ひ、ひ、と必死で息をする身体が未だ余韻に支配されているのは見れば分かる。
「………ぅ、」
指を引き抜くと、尚も反応してしまうのか足先が揺れた。もう、抵抗の意志はないようだった。ネクタイを解いてやる。その行動に、やっと終わるのだ―――とほっとしたような、色を見て。
 ああ、本当に。
 そんな顔を簡単に晒すから、と思う。責任転嫁のようなその思考を、指摘してくれるような人間はいない。
「―――ッ!?」
「………はは、」
こちらの動きを見ていなかったのだろう、その瞳が見開かれる。ずぶずぶ、と勢いのついた動きは彼女の最後の砦を崩したようだった。散々達したなかはとろとろと絡みつき、腰はコントロールを失ったように跳ねる。
 息も真面に出来ないらしい唇に、せっつくようなキスを落としながら、勢いをつけなくても良かったな、なんて思った。もっと、と求めるようにうねるなかは、すんなりと一番奥まで導いてくれる。
―――どうして、
そんなことを問いたいのか、時折戻る光がいじらしい。もう、言葉なんて出ないくせして。嬌声を上げさせられるだけの肉のうつわになっているだけのくせして。
「ボクは、まだ、」
ぐ、となかを抉るように突くと、悲鳴のような声が上がる。もう声は出ないと思ったのに、まだまだ聞けるらしい。
「イッてないんですよね」
ひ、と。
 また喉が震えた音がした。
 それに加虐心が煽られて、余計に興奮するのを彼女は分かっていないのだろう。
「ほら、きみがかわいいことをするから。こんなに…大きくなっちゃいました」
「―――っ、………は、ゃ、ああっ、」
「きみも、ボクのが欲しかったんですよね?」
「〜〜〜ッ!!」
「…気持ちよすぎて答えられませんか」
びくびくとのたうつだけの彼女を見下ろしながら、まだ始まったばかりの夜を思う。
 彼女の意志に反してスリーを歓迎するなかは、ひどく従順で素直で、きっと、朝になるまでにはちゃんと覚えてくれるのだろう、と思ったら。このいじらしい光をはやく、粉々にしてやるのが正しいような、そんな心地になった。



舌切すずめ



 舌なめずりなんてものをする人には思えなかった。でも、実際今見えたそれは確かに舌なめずりだったのだろう。わたしは獲物で、彼は捕食者で。わたしに出来ることなんて何もない。ただ、従うことしか、許されていない。
 唾液が。
 嚥下される音が、ひどく大きく聞こえた気がする。気の所為、だ。分かっているのに、わたしはその感覚から逃れられない。スリーさんがわたしを、見ている。その目に、確かな欲情を滲ませて。一体、どうして―――わたしは、問おうと思えば問えた、はずなのに。抵抗だって、出来ないわけではない。口先で否定の言葉を吐いたってよかった。それが、何の実も結ばないのだとしても。だというのに、獲物に成り下がったと分かってしまったからか、わたしは抵抗一つも出来ないで。
 服は、するすると脱がされた。何処も味わわれていないくらいに、あちこちを舌が這う。指先の一つひとつでさえ、余すことなく、丁寧に。そんなことをされていれば、馬鹿な身体は期待を膨らませて、猫のような声を出す。スリーさんの指が脚に触れて、誤魔化せないほどに濡れたそこを掻き回す。いやだ、とは言えなかった。その代わりに媚びるように鼻が鳴って、涙がぽろぽろとこぼれた。それをスリーさんは拭ってから、わたしの腰を掴む。そうなってしまうと分かっていたはずなのに、せめて、とでも言うようにわたしは首を振って、でも弱々しいそれがスリーさんに届くことはなく、届いたところで聞き入れてもらえるのかは絶望的ではあったが―――一気に、貫かれた。
「―――、っ!」
その性急さとはうらはらに、それからの動きはゆるやかなものだった。まるで甚振られているみたいだ。みたい、じゃあなくて実際にそうなのかもしれなかったが。なかの襞が一枚一枚めくられるようなゆっくりとした動きなのに、どうしたって尊厳だとか、そういうものが崩されていくような気がする。完全には抜けない程度に引き抜かれて、またゆっくりと押し込まれていく。その動きにわたしの馬鹿な身体は期待するようにひくついた。それをスリーさんも分かっているのだろう。味わわれているようで、落ち着かない。逃げたい。何処にも逃げられないのに。
「…きみは、」
ふいに、スリーさんが笑った。やわらかく、けれども情欲の焔は消さないで。
「素直でいい子ですね」
胸に手が伸ばされて、いい子、という言葉とは対照的にまるで叱るようにつねられた。痛いのに、どうしてか、気持ちいい。そんなふうに、頭が馬鹿になる。
「………は、」
締まった、とスリーさんが笑う。褒めるような口調なのに、嘲られているような心地になった。涙は止まらない。気持ちよくなんてなりたくない。なのに、過敏とすら言えてしまう様相のわたしは、内側をなぞられる度に唇を噛んだ。
「………ッ、ぅ………ンッ、」
 声なんて、出したくない。なのに、スリーさんがその先端で内側をこする度、まだ出ていないはずの精液が塗りつけられているような妄想に囚われる。
「…あまり、可愛いことをされるともっと虐めたくなるんですよ」
何を言っているんだろう。何も可愛いことなんてしていないのに。身体を起こされる。スリーさんが一旦抜けていって、思わず声が出そうになってまた唇を噛み締める。スリーさんはやわやわと唇を撫でてから、こっちを向いて、とわたしを抱き上げて、そのまま後ろから挿入した。
「―――〜〜〜ッ!!」
さっきとは違う場所に当たる、ぱちぱち、と瞼の裏で何かが光っては消えていく。
 ほら、とスリーさんが瞼をなぞった。
「目を開けて」
…わたしは。
 言われたとおりにするしかない。だから、目を開けた、それだけなのに。
「―――」
「ね、きみはこんなに可愛い」
ボクのものをずっぽり咥え込んで腰を揺らしているのに、まだ嫌がっているふりをする。
「………っ、ぁ、や………」
其処には鏡があった。スリーさんの言うとおりに、快楽に堕ちている知らない女の顔があった。
「ゃ、やら、ぁっ…」
「嫌じゃないでしょう」
可愛いんですから素直になってくださいね、と耳を食まれて、また腰が揺れるのが分かった。でも、もうそれが最後で、あとは何も分からなかった。
 分かりたくなかった。



パブロフ



 眩暈がする、みたいだった。自分の身体なのに自分の身体じゃあないようで。大丈夫ですか、なんて言葉が嘘っぱちなことは分かっている、でも、理由は分からなかった。マフィアである以上、こういうこと≠ヘ想定済み―――の、はずだった。それには勿論、上司からのセクハラ・パワハラというのも込みである。そういう思考をしていても尚―――この状況は分からなかった。
「す、りー…さん………」
ぜいぜい、と掠れていく喉で呼ぶ。つらそうですね、なんて。やわらかい笑みが降ってくる。違う、違うのだ、そんな顔をされるような状況ではない。
 指先の動き一つひとつに、子犬が殴られたような声が出て。
 違う、と必死に言い募るのに。
「まさかきみが、こんなことを望んでいたなんて」
緩やかに、スリーさんは言葉を紡ぐ。動かないわたしの身体の上に乗り上げて、コントロールの効かない性感を引きずり出す。どうして、と思った。どうして、わたしなんか。わたしは別段目立たない方だったと思うし、そもそもスリーさんだってわたしのことを認識していたかどうか怪しい。なのに、何故。それに、スリーさんであればこういう―――性欲の発散だとかに部下なんかを使わなくても、困ることはないだろうに。ひ、ひ、と泣き喚くつもりだったそれは嬌声にすげ替えられる。わたしの輪郭が、消えていく。
 棒切れのようになった脚が開かれて、簡単に其処が晒された。スリーさんの指が滑る度、嫌な水音が耳にまで昇ってくる。…嫌、なんだろうか。沸騰するような思考が、そんな陰りを齎しては必死に首を振って取り戻す。
「そんなにしたかったんですか? もう溢れて来てますよ」
にこり、とスリーさんが笑う。そんな、笑っている場合じゃあないだろうに。いつもの、笑みで。わたしの涙を拭って。
「………ぃ、や…」
「これなら、慣らさなくても大丈夫ですかね」
「………ぇ、」
いつ。
 ベルトの音がしたのか分からなかった。
 熱のかたまりがずり、と押しつけられて、わたしは悲鳴を上げるはずだったのに。喉から出たそれは期待にまみれているように聞こえて。違う、違う、違う。ずり、ずり、と滑るそれを、身体は欲してやまないと言うように震える。違う、要らない、欲しくない。腹の奥がきゅう、と疼いて仕方ない。
 スリーさんは暫くそのままわたしの腰が震えるのを眺めていたようだったけれど、わたしの緊張が途切れた瞬間を狙ってか、そのまま一気に腰を落とした。
「―――〜〜〜ッ、!!」
「………は、」
昂ぶった熱が、奥の奥まで叩きのめしていく。びくり、と跳ねた身体は陸に放り出された魚のようで、わたしはもう、息の仕方すら分からない。
「そんなに、嬉しい、ですか…っ」
「あ、ゃ、やぁっ、」
「たくさん突いて壊してあげますね」
「―――ッ、ぁ、やあっ、ああっ」
ぱちん、と理性がねじ切られる音がした、ような気がした。宣言どおりに動きが早められる。もうついていけない思考が、ばらばらに舞い散っていく。
「ふ………ぁ、っ」
空を。
 掻いた指がそのまま、何処に落ちていったのか。
 わたしにはもう、理解の及ぶところではないのだ。



作業BGM「アクセラレーション」初音ミク(Mishi)