夕焼け小焼けでまた明日
どうしてこんなことになったんだっけ。
ぐらぐら揺れる視界の中、涙が拭われていくのを感じる。
「大丈夫、怖くないですよ」
「………っ、ふ、」
安心させるようにキスをされて、もううまく考えることの出来ないおれは、必死にそれに縋る。
「ぅ、んっ、ンッ…」
「ん、は…必死で応えようとするの、かわいい…」
「えースリーにいちゃんばっかずるい」
「後ろから挿れたがったのはきみでしょう」
「そうだけどさあ」
腰を掴む手に力が入るのを感じて、おれは目の前のその人の首に腕を巻きつけたのだった。
そんな、妙なことをしたわけではないと思う。
具合が悪そうな人を見かけた、だから、大丈夫ですか? と声をかけた。夕焼けみたいな色の髪をしたその人は、少し休めば大丈夫です、と言って、でも流石に心配だったから暫くそばにいて。それから…どうしたんだっけ。そうだ、迎えの人が来て、なら大丈夫か、と離れようとして。そうしたら、お礼がしたいと言われたのだ。おれはそんなの良いです、と答えたはずなのに、少し話している間にお礼されることになっていて、あれ? なんて思って。でも、別にお礼くらいなら良いかとも思った。今日は休みだったし、予定もないし。だから人助けなんてしよう、って思ったのもあるんだと思う。…でも、そのあとは曖昧だ。食事に、とか、そういうことを言っていたような気もするし、食事に行ったような気もするし。気付いたらベッドの上で、知らない部屋で、おれは何も着ていなくて。もう良いよね? と聞いてきたのは迎えにきた方の人だった。何が、と聞き返そうとしたのおれの口から出たのは、いつも出すことなんてない音域の声で、まるで、喘いでいるようで。それに応えるように指が引き抜かれていった。何処から、なんていうのが理解出来ないうちにひっくり返されて、それから充てがわれて。嫌だ、と言ったはずなのに、何も聞き入れてもらえなくて。
「―――〜〜〜ッ!!」
なのに、身体はおれのものじゃないみたいにしなる。びくびく、と震えて男のものを咥え込む。知らない、どうして、知らない。今までこんなこと、したこともないのに。違う、どうして。言葉にならない。
腰を強く掴まれたまま、がつがつと奥を突かれる。その度に身体が揺れて、視界も揺れて、腕に力が入らなくなっていくのをもう一人が支える。このもう一人の方が具合の悪そうにしていた人、だったはずなのだけれど。
脳味噌が沸騰するようで、何もかもぐちゃぐちゃだ。
「、やっ、あっ、ぁッああっ、んっあっ、」
「はは、めちゃくちゃいー声出るじゃん…」
「ゃ、ああっ!? ゃんっ、ぁっ、あっ」
「此処、すき?」
「んっ、ぁ、やめ、やあっ、」
「あっ、すっげ…食いちぎられそう…」
「ひ、ぁっ、ああっ、やら、ゃ、」
終わりのない感覚に突き上げられる。宙に放り出されてしまったような、そんな心地がする。もっと―――もっと。もっと、なんだろう。分からない。
「…っは、」
「あ、ぁ、…ゃ、ッやだ、アアっ!?」
「はー………無理、も、でる…」
「―――ひ、ぁあっ、」
どくどく、と腹の中が満たされるような心地がする。ずっと、これが欲しかったような、いや、違う、そんなはずがない。
「なかで出されてうれしい?」
「ち、が…っ」
「でも、きゅうきゅう言ってるじゃん」
ゆるゆると腰をすり付けられるのから、さっさと逃げたらいいのに。掴まれているからと言って、逃げられないことはないだろうに。おれの身体じゃないみたいに。
ものを抜かれて、手を離されて、やっと、おれはベッドに転がった。最後まで支えてくれていた人が立って、何処かへと行ってしまう。それと交代するようにおれを犯していた人はおれの顔の前にやってきて、それから涙を拭った。
「泣くほど気持ちいい?」
「―――、っ」
何を言っているんだ、と思った。なんとか抵抗の意を示すために、その指から逃れてシーツを掴む。このままでは、いけない。ベッドにうつ伏せになっているような状態だけれど、そんなことを思った。このままでは、もっと、よくないことが起きる。
「ぅ、」
「あれ、逃げるの? だめだよ」
「ひ、ぁっ!?」
逃げようとそのまま這おうとしたのに、それは叶わなかった。腰を掴まれて、今度は上げさせられて。真面に反論の声を上げるより先にねじ込まれる。
「ゃ―――、っ」
それを嘲笑うかのように硬いものはずるずると奥まで進み、すぐにおれのなかを満たしてしまった。さっきまでぐちゃぐちゃに突かれていたから、こじ開けられるような感覚もなかった。
「ぁ、や………なん、で、…っ」
さっきまでおれを甚振っていた人は目の前にいる。なのに、なんで。そんなおれの疑問に答えるかのように、後ろから耳を噛まれた。
「ひ、ぁッ」
「きみの声だけで、勃っちゃいました」
もう一人、の方だった。どうして、なんで。おれは、少し、心配しただけだったのに。なんにも悪いことなんてしてないのに。
「すごくかわいい声で…ほら、分かりますよね? きみが勃たせてくれたんですよ?」
「ゃ、ぅ、」
「その声もかわいい…」
その言葉に必死で首を振る。ちがう、おれの声じゃない。おれはこんな声を出さない。なにかの間違いだ、そう思うのにぞくぞくと背中を何かが駆けていく。思考が弾けて、ばらばらになる。
「具合も…随分、良いようですし」
「この子、ほんとによく締まるよ。スリーにいちゃんの勘、外れないよねえ」
「でしょう?」
何の。
話をしているのだろう。思考が追いつくより先に、目の前の男が手を伸ばしてくる。そして、おれの腹へと指を沈ませた。
「あっ、ああっ!?」
瞬間、電流を流されたような心地に陥る。
「ここ、外からぐりぐりされると気持ちいいでしょ?」
「ゃっ、やらぁっ、や、」
「ふ、っ…すごい締めつけ…」
「スリーにいちゃん、中からも押してやって」
「言われなくてもしますよ」
「ッ、あ、やらぁ…っ」
頭が真っ白になる。どうしていいのか分からない。声は止まらないし、視界ががくがく揺れるのを煩わしいとも思えないで。
「ゃ、あっ、ああっ、んっ、ぁ、」
「腰、揺らしちゃって…かーわいー…」
「おねだりするみたいに中、絡み付いてきてますよ」
「いーなあ、スリーにいちゃん。俺もあとでもっかい挿れよ」
「先に挿れておいて何言ってるんですか」
「それはそれ、これはこれ」
「…まあ、分からなくもないですけど」
頭上の会話に何を返すことも出来ない。疳高い声が喉を震わせて、唇がいやなふうに歪んでいくのだけが分かった気がした。
「ね、きみさ」
ぐずぐずと揺さぶられるおれの頬を丁寧に包んで、男はキスを落としてくる。
「ずっと此処にいなよ」
「ぅ、え…?」
「もっと気持ちよくしてあげるから」
舌が入り込んできて、上顎を擽って。焦らすような動きに熱が溜まっていく。
「俺たちのおもちゃになっちゃいなよ」
「―――」
その、言葉に答えるより先に。
「っ、出る…」
「ゃ、あっ…! ゃら、ぁ…ッ」
「…そんなに欲しがらなくても、ちゃんとあげますよ…っ」
二度目、腹の中がどくどくと塗り潰される感覚があって、ぴん、と張り詰めた意識が一瞬、がくり、と切れたような気がして。
―――きっと、
この瞬間、おれの未来だとかそういうものもすべて、真っ白に塗り潰されてしまったのだろう。
そう思っていた方が、多分、幾らか楽だった。
透明な明日のために
どうしてこうなったのか、なんてまったくもって分からない。おれはただの下っ端で、だからなのかもしれなかった。ただ、発散したくて、傷付けたくて。そういう苛立ちは多分、上の方が多いだろう、とは思っていた。思っていたけれど、だからと言って自分が巻き込まれる、というのが想像出来ていたか、と問われると答えはいいえ、だ。
ぱん、と音がする。
その度におれはひ、ひ、と情けない声をあげるしかない。
「ほら、顔隠さないで。ちゃんと映らないでしょ?」
だだっ子をあやすようなやさしい声で、おれの顎を擽るのは上司だった。…そう、上司。自由気ままが服を着て歩いているような人だったけれど、その実、言わないだけでいろいろと溜め込んでいるのは察していた。おれが察していたのだから他の、もっと古株の構成員ならば尚のことだろう。おれはしがない下っ端だから、大丈夫でしょうか、なんて時々確認するくらいで、真面に上司と話したことだってなかったのに。
「ちゃんとカメラ見て?」
「―――、ぅ、や、」
「命令だよ、命令。分かるでしょ?」
―――分かる。
裏社会では、表社会よりその規律が厳しいことが多い。上の命令は絶対、それが、どんな飲み込めないことでも。だって、上の命令が守れないものは必要ないから。切って捨てられたくなかったら、それを守るしかない。
おれは。
今どうしてこんなことになっているのか分からなくても、すぐに死にたくはなかった。
「そう、」
いい子、とキスが贈られる。この行為におれの意志が伴っていないことを除けば、上司は丁寧で、やさしくて。おれが痛くないかも都度都度確認してくれて。だから余計に混乱している、というのもあったけれど。
―――あと、
それを横で黙認している彼の兄の存在もまた、混乱を助長させていると思うけれど。黙認している、というか、動画を回している、と言うか。
「ひっ、あっ」
余所事を考えていたのがバレたのか、いっそう強く腰が叩きつけられた。
「あっ、やっ、ぁ、」
「ね、名前呼んで?」
「しっ、しっくすさ、やら、」
「やじゃないでしょ? 気持ちいいでしょ? 嘘吐くとお仕置きするよ?」
「ぅ、あっ、やら、…ッぉしおき、や、」
「なら言えるよね?」
「ふ、っう…、」
「ね?」
ぐすぐずとなかを掻き混ぜられると猫のような声が出る。今までのおれが全部嘘になったみたいに、頭が真っ白になっていく。
「う、ぁ………ッ」
逃げ出したくて、でも膝の上に抱え上げられている状態では何処にもいけなくて。
せめて、と思って手を伸ばす。
「―――」
「ぅ、う、…っ、」
「あーあ、顔映らなかった」
「…ッ、ぁ、ごめ、な…っさ、」
「謝るより先に言うことあるよね?」
ひぅ、と喉の奥で変な音がした。またなかで、上司のものが硬度を取り戻すのが分かる。どうして、どうして―――聞きたいのに、おれにはそれが許されていない。
「しっ、くす、さ…」
「うん」
「き、きもち、い………」
「だよね」
よかった、とおれを抱き締める上司の腕はひどくやさしくて、だから本当はもう、何も考えたくないのに。
「この動画さあ、」
「ひ、………ァッ、あっ、」
「あいつに送ってあげるから」
「ふ、っ、………え…?」
「あいつだよ、あいつ。最近ずーっときみにつきまとってるやつ」
上司の言葉で現実に手繰り寄せられる度、また突き放されて。それを繰り返しながらも意識を手放せなくて。
「…な、なん…れ…」
舌がうまく回らない。確かに、最近距離の近い同僚はいた。でも、それだけだ。この動画を送る理由にはならないだろう。おれがそんなふうに思ってるのが分かったのか、上司がまた、キスをくれる。
「あいつ、きみのこと他の人身売買組織に売りつけようとしてたんだよ?」
「………ぇ、」
「しかも、愛玩用として」
ついでにその前に味見したかったのか、ご丁寧に薬まで用意しててさあ。自分に自信ないって宣言してるようなものだよね。まあ薬漬けにして逃げ出せないようにするつもりもあったのかもしれないけどね? ―――上司の言葉が、滑っていく。
何を、言っているのだろう。
「でも、もう俺が手をつけたから」
「う、ぁ、っ」
「薬も何もなしで、きみから縋ってくるくらいどろどろに甘やかすの、結構楽しいし」
「な、ゃ、んんっ、あ、…っなに、いって…」
「きみだって気持ちいいんでしょ? 自分で言ったもんね? 嘘、吐かないもんね?」
そうだ、言った―――言ってしまった。お仕置き、という言葉から逃げたかったのもあるけれど、言ったものは言ったのだ。そして、言ってしまった言葉は取り消せない。
「………は、ぃ…」
「うん、いい子」
頭を撫でられ、キスを与えられ、何が正しいのか分からなくなる。…さっきの、話だって。何処まで本当か、なんて分からないのに。
「スリーにいちゃん、そろそろ混ざる?」
「そうですね」
「じゃあ向き変えようね」
置いてけぼりのおれから、一旦上司が抜けていって。今度は彼に寄りかかるような形で挿入される。そんなおれに向き合うかのように彼の兄がやってきて、さっきの上司と同じように、やさしいキスをくれる。
「んっ、ぅ、」
「流石に最初からなかではイけないんですね」
「っ、あっ、すり、さ」
するり、とその指がおれのものに絡んだのを見てか、また律動が始まる。
「ぁ、やっ」
「はは、すごくかわいい」
「ね? かわいいでしょ?」
「レイプされてるとは思えない反応ですよね。気持ちよくなって、ボクたちに縋って…シックス、これ本当に送るんですか? 勿体ない」
「だって送ってやらないと理解しないでしょ。後処理も考えてるから大丈夫だよ。ていうかレイプじゃないし。もう合意だし」
「そうなんですか?」
「そうだよね?」
かぷり、と耳が食まれたのと同時に、彼の兄の親指がいいところを擦っていった。
「ぁ―――、っ」
「ぅ、ねえ、めちゃめちゃ締まる…」
「次出したら交代してくださいね」
「俺は良いけどさ、本人に確認取らないと」
「確かに」
目を。
覗き込まれる。
「次は、ボクが挿れて良いですか?」
「―――、」
「あっ、ね、締めないでってば」
「締まった方が気持ちいいんじゃないですか?」
「それはそうだけど〜…もうちょっと楽しみたい」
「別に、ボクのあとにまたすれば良いじゃないですか」
「…まあ、そうだけど」
やさしい手付きで、頬を撫でられる。
「きみも、」
だから、おれは本当に何が正しいのか分からなくなってしまった、多分、そういうことだった。
「もっと気持ちよくなりたいですもんね?」
こくり、と僅かに縦に振られた首の動きを見逃されるはずもなく。でも、よかった、と嬉しそうなその人を見ていたら、何かが間違っていても別に、良いような気がした。
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