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星が鳴っている


 ルールというのは当然、人間同士がうまくやっていくためにあるもので、でももうここまで来てしまったらそんなもの意味がないよな、と思った。そもそもを言ってしまえば此処は裏社会で、本当はそんなルールの外側で。
 どうして、なんて言葉に意味がないことは彼女だってよく分かっているだろう。それでも聞かずにいられないのは、それだけスリーが人畜無害に見えていたからだろうか。そうやって演じていたつもりはないから、どうでも良かったけれど。
「ほら、口開けてください」
きつく、侵入を拒もうとする唇に擦り付けるだけで硬度が増していく。透明に彩られていく唇を眺めているのも悪くはないが、やっぱりもっと直接的な快楽が欲しかった。喉を掴んでやると、予期していなかったのか唇が僅かに開く。その隙間を見逃さずにねじ込むと、行き場を失った舌がゆるり、と蠢くのが分かった。
「そうそう、舌使ってください」
「ん、…っぐ、ぅ、」
「頑張らないと喉使いますよ」
「ぅ、…ぐ、ぁ、がっ、」
「苦しいですよね。嫌ですよね。なら頑張って舌使ってください」
気道を埋められる苦しさには耐えられなかったのか、諦めたように舌がちろちろ、と動き始める。
「その程度しか出来ないんですか? なら喉使った方がマシですかね」
控えめな動きにそう脅しをかければ、今度こそ真面な動きが返ってきた。
「出来るなら最初からやってくださいよ」
「…っ、ンッ、ぅ、」
「あ、今のすごく気持ちいい…」
「ふ、ぅ、…っん、」
「上手、ですね」
「んっ、く、ぁ、んんっ、」
「他の男にもこんなふうにしてきたんですか?」
きっ、と睨みあげたつもりだろうが、苦しさで涙の浮かんだ目では大した威力にもならない。
「はあ、もう良いですよ」
「げほっ、かは、…っん、」
 咳き込む彼女をそのまま押し倒して、さっさと服と下着も剥いだ。抵抗はあったような気がするが、大したものではない。その理由も、脚を広げてやればすぐに分かったが。
「ぐっちゃぐちゃじゃないですか」
「ゃ、みないで…ッ、」
「ボクの、そんなに美味しかったんですか?」
「ち、が…っ」
指を挿し込んでぐるり、と回してみる。痛みを感じているようには見えなかった。なら、と指を引き抜いて、代わりに腰を引き寄せる。
「もう挿れても大丈夫ですよね」
「ゃ、まっ―――………ぁあっ」
静止の言葉を聞かず、そのまま一気に腰を落とした。
 びくびく、と身体が震えて、咄嗟、とでも言うように口が抑えられる。その抵抗にもなっていない抵抗がいじらしくて、反応の違った一箇所には触れないように律動を繰り返した。熱を持った腰が震えるけれども、抑えてしまえば自分で押し当てることも出来ない。それがもどかしいのだろう、力の入っていない脚が、ゆるり、と絡み付いてくる。
「そんなに引き寄せようとしなくても」
「………ぇ? ぁ、ちが、っ」
「何処が良いんです? 教えてくれたらちゃんとしてあげますよ」
「…っ、ぅ、ちがいますっ、」
「この辺りですか? それともこの辺り?」
あと少しのところで掠めるようにしてやると、また脚がねだるように絡み付いてきた。けれども、まだ折れたくはないらしい。
「…ッ、………っ、ぅ、…んっ」
必死で声を出さないようにだろう、唇を噛み締めている姿もいじらしい。いじらしい、けれど。そこまでして耐えられると鳴かせたくなるのが心情だろう。
「―――っああ!?」
 焦らして、焦らして。そうしてやっとのことで与えられた快楽に、彼女が必死で守っていた砦が崩れ落ちる音がした。
「ゃ、はっ、ンンッ、ゃあっ、あっ、あっ」
「はは、此処でしたか」
「あっ、あっ、ゃ、あ―――ッ」
「すごい…そんなに気持ちいいですか? ぎゅうぎゅう締め付けてくる…」
「ゃ、ら、あっ、あんっ、あ、ちが、」
「違うならまだ此処、突いても良いってことですよね」
「あっ、ゃ、ちが、ゃっあ、あっ、あんっ」
「おかしいですね、気持ちよさそうな声は出てるのに」
「ひ、ぁ、や、」
 震える手が、伸ばされる。
「も、やら、だめぇ…っ」
涙と唾液でぐちゃぐちゃになった顔に、一度出しておいてもよかったな、なんて思った。まあ、それは次でも良いか、と自分に言い聞かせる。快楽に打ち震える身体に、忘れないように刻み込む方が先だろう。
「ぃっ、イってる、か、らぁ…あ、ぁんっ、ンッ、ゃ、」
「え? さっき、気持ちよくないって言ったくせに」
「………っ、きもち、よく、な、」
「ならなんでイってるんです?」
「…ッ、ぅ、」
「ほら、」
頭が真っ白になってしまえば良い、快楽に隷属してしまえば良い。そんなふうに思いながら、ぐりぐりとなかを刺激し続ける。きゅんきゅん、と素直な反応があるのを薄ら笑いで飲み込んでいく。
「ああっ、すり、さ、ゃあ、ら、」
「はは、かわいいですね」
「………ひ、ぁ、っ、あっ、あっ、ン―――!」
「そんなにしがみついて…もっとして欲しいんですか?」
「ゃ、あ、っらめ、あっ、あんっ、ぁ、」
「喘いでばっかじゃ分かりませんよ」
「ぁっ、も、あっい、ぃく、ゃら、いっちゃ、ぅ、らめ、あっ」
「こうですか?」
「ひゃ、ぁ―――~~~ッ!!」
「なか、すごいびくびくしてる…」
「ゃ、あっまだ、ぁっ、ぃっ…ぁ、あんっ、ゃ、あ、」
 耳に噛み付いてやれば、それだって快楽になるのかなかが締まった。
「は、きもちい…」
「んっ、あっ、あっ、ゃ、らめ、ぁんっ」
「きみも気持ちいいですよね?」
「ゃ、あ、ちが、ゃら、」
「そんなに締め付けないでくださいよ…下の口はこんなに素直なのに」
「ゃら、やめ、あっ、あんっ、あ―――」
「またイッてる…。気持ちいいですよね?」
「ち、ぁっ、やっ、あっ…んんっ、」
「気持ちよくないならちゃんと気持ちよくしてあげなくちゃいけませんかね」
「ゃ、あっ、ぁあ、っも、ゃ、」
「たとえば―――」
なかなか強情だな、と苦笑しながら、そのまま耳に流し込むようにして囁く。
「なかに、出すとかして」
瞬間。
 悦ぶようになかがきゅう、と締まった。
「―――ゃ、」
「ああ、なんだ、そうして欲しかったんですか」
「ゃ、あっちが、ゃ、んっ、ぁ、…あっ、あっ、ぁ、」
「ならちゃんときみの願いを叶えてあげないと」
「ゃっ、やだ、すり、さ、っあ、あんっ、ぁ、や、ゃだあっ」
「きみのやだ、はイイ、ってことなんですか? やだ、って言う度にきゅうきゅうなか締めてるじゃないですか」
「ゃ、っやあ、らめ、ゃ、なか、ゃあっ」
「ねえ、本当は出して欲しいんでしょう? だからこんなに悦んでるんでしょう?」
「ゃ、っあ、ほんとに、ちがっ、ゃ、あっあっ、」
「ほら、出しますよ」
「あっ、らめ、…っぁ、あ、ああっ、んっ、あっ、」
逃げたがる腰を掴んで、押し付けて。恥骨がごりごりとぶつかり合うくらいに、まるで、潰すように。
「ゃ―――~~~ッ」
「は、ぁ、…っ」
 いちばん奥まで、届くように。
「搾り取られてる、ってこういうのを言うんでしょうね」
「ゃ、あ、…ぁ、ぁんっ、」
「はは、きみが欲しがる所為でまたかたくなった…」
「…っ、や、ぁ、やめ、」
「もっと欲しいんでしょう? 次はもっと奥に出しますから」
「や、ぁっ、あっ、んっ、」
「そうそう、欲しいならちゃんと、協力的になってくださいね」
「ち、が、ぁ、や、あっ、ぁあっ、ん、ぁ、」
尚も嫌、とは言われるものの初めより弱くなったその声に、あと数回出したら対位を変えてやるのもありだな、と思った。


嘘も嘘とて鷽に喰う


 優しい遣り方なんて分かっていた、実際はそれが優しいと言えないことだって、当然。だから袖口をつまんでみせるところから初めて、弱々しい姿を見せて。距離が近付いたことにそう、疑問を持たせないで。するする、と触れる箇所を増やしていってから、何か言おうとしたのだろう唇を塞いだ。言葉を封じるようにキスを重ねながら、合間合間に好きです、とねじ込んでいく。
 混乱が先立つのだろう、押し返してくる手に力は入っていない。だめですか、と目を潤ませてみれば言葉に詰まったのが分かった。そういうところだ、と思う。そんな―――マフィアに不似合いな、甘さを持っているから。こんなふうにつけ込まれるのだと言うのに。
 けれども、丁寧に、優しさを装ってしまえば、彼女を騙すのは容易かった。欲を引き出され色付いた肌は、触れるだけでびくびくと震える有様で。
「すごく、濡れてる」
指をきゅうきゅうと締め付けるそこは、その仕草の割には動かしやすかった。ばらばらに指を動かしてやれば、ぐちゅぐちゅとはしたない水音が響く。
「気持ちいいんですね」
「………っ、ぅ、」
「頷いてくれて良いのに」
 ほら、と指を抜いて、脚を折り曲げさせる。腰が少し浮くようにしてから、ぬめりを纏わせるように擦り付ける。その熱さに浮かされたのか、腰ががくがくと震えるのを眺めてから、一気に貫いた。
「ぁ、あ―――ッ、!?」
「は、きっつ…」
これだけ濡れているのに、狭い。うねるようななかが、ひたひたと吸い付いてくる。それにいざなわれるように最奥まで推し進めると、悲鳴のような嬌声が上がった。
「奥、好きですか?」
「ぁ、あっ、や、」
「そんなに、締め付けなくても抜きませんよ」
「ゃ、やら、あっ、ぁっ」
ぐりぐり、と押しつぶすようにされるのが悦いのか、押さえつけた身体が逃げたいのか、びくびくとのたうった。
「ゃ、やあっ、ぁっ、あんっ、」
「嫌じゃないでしょう」
「ゃ、ぃや…ッ、ぁ、や、あ…っやだ、っ」
「イきそうなくせに」
「やら、ゃ、い、…ッ、ぃきた、く、な…っぃ、」
 唇を噛み締めて、目に涙をためて。身体はもう、快楽に屈しているのによくやるものだ。
「………そう、ですか」
呟く。
 まだ抗うと言うのなら。
 取る手段は一つだけだ。
「分かりました」
にっこりと微笑んでみせた顔が、彼女にどう映ったかなんてどうでも良かった。

 欲しい、というのがこんなにも、身体で示されることもないだろう。
「ぁっ、あっ、ゃ、ああっ」
彼女の望み通り、彼女が達さないように細心の注意を払いながら律動を続ける。奥は好きなようだったが、そう開発されてはいないのだろう、その辺りを刺激されているだけではまだ、達することは出来ないらしい。
「ぁ―――あっ、ん、ぁ、…」
とろり、とした視線が此方に向く。
「ゃ、あ、すり、さ…」
「なんですか?」
「…くる、し…っ、ゃ、それ、やあ…ッ」
「苦しいんですか」
「っふ、ぅ、…ぁ、ゃら、や、あっ、ゃめて、くださ、も、…ぁっ、」
 唇が、震える。
「たす、けて」
それを聞いた瞬間、笑みが浮かんだのが分かった。
「良いですよ、助けてあげます」
「ぅ、あっ、ふ、ぁ、んんっ、ゃ、」
「どうやって助けて欲しいですか?」
「ぇ、あ、ゃ、………っあ、」
「どうして欲しいですか? …どうしたい、ですか?」
「ぁ………」
期待なのだろう、きゅう、となかがまた締まる。随分素直な身体なのに、どうしてこうも強情になれたのか。
 涙がぼろぼろとこぼれていく。
「ぃ、いき、た…っぃ、」
「さっきはイきたくないと言っていたのに?」
「ぅ、あ、ゃ、」
「意見を変えるのは別に良いですよ。でも、言うことがあるでしょう?」
「―――」
そんな表情をするから、底意地の悪いことを言って反応を見たくなるのだ、と責任転嫁したくなった。
「…ごめ、ごめんな、さぃ、…」
「はい」
「ぃきた、ぃ、です、………」
「はい」
「………ぃ、」
流石に言葉に詰まったのか、意味もなく唇が戦慄くのを見て緩めていた律動を再開する。まだ、達することは出来ないように注意を払いながら。
「ゃ、ふぁっ、ぁ、ンンッ、ぁんっ、あっ、や、」
「ボクは別にこのままでも良いんですよ? 気持ちいいですから」
「ゃ、やあっ、ごめ、な…っぃ、あ、ゃあっ」
「ほら、ちゃんと言わないとずっとこのままですよ。良いんですか?」
「ゃらあっ、あっ、ぃう、ぃいます、あっ、や、ら…ッ」
「どうして欲しいんですか?」
「ぁ、………っすり、さ…」
「はい」
「―――、」
もう唇が噛まれるようなことはなかった。どろり、と理性を砕かれた瞳が此方を見上げている。
「ぃ、いかせ、て、くださ…ぉねが、い、します…ッ」
「―――では、」
 腰を掴み直してやる。
「きみの望みどおりにしてあげましょうかね」
「―――~~~ッ、ぁ、は、…き、たぁ…っ」
望んだ解放に、背中がしなる。
「ぁっ、あっ、は、ぁ………ッ、」
「きもちいいですか?」
「…きもち、い…っ、あっ、はん…っ、そこ、ばっか、…だめえっ」
「きみがイきたいと言ったんですよ?」
「ゃ、あ、れも、あっ、らめ、ぁ、………っまた、ぁ、きちゃ、ぅ…っ」
「何度でも気持ちよくなって良いですからね」
「はっ、ぁ、あっ、あっ、ぁ―――~~~ッ、」
「…ボクも、そろそろ、」
 呟きに呼応するように、なかが吸い付くように締まった。
「ぁ、っ、んっ、あっ、は…ん…っ」
「―――、は、あっ」
「ぁ………」
奥の奥に、白濁を注ぎ込む。もう身体は逃げようとはしなかった。寧ろ、もっと、とでも言うように強請られる。
「………ぁ、は…っ………なか、ぁつい…」
「もっとあつくしてあげられますが?」
「―――………」
するり、と指がシャツを掴む。
「………し、て」
「して?」
「くだ、さい…」
その言葉に、よく出来ました、とキスをする。
 好きですよ、とまた言葉を重ねれば、わたしもです、なんていう言葉が返ってきた。
 それを聞いてしまったら、もう手加減は出来ないな、と思うのも仕方のないことだった。


さよならは此処にはない


 ちゃんと立つことも出来ないんですか? と謗るように言えば、必死でその言葉に応えようとするのだから。そういうところだ、と思う。敢えて服は乱さずに、そっと裾から手を入れて、ゆっくり、ゆっくりと愛撫を重ねる。丁寧に快楽を蓄積させていく。
「…まだ、触っていないのに」
「ひ、」
指先で掠めるようにしてやれば、その頬がカッと紅く染まった。
「勃ってますよね?」
「ん、ぁ、ちが…」
「違うんですか?」
すり、すり、と。決定的な刺激にならないように続ければ、もどかしいのか太腿が擦り合わされるのが分かった。
「じゃあ、これは何なんです?」
「ひゃんっ!」
「この、ボクの指に挟まれて、こりこりになってるのはなんなんですか?」
「、ゃ、は、ぅ…」
「ねえ、聞いてるんですよ」
つまんで、こすって、時には弾いて。
「ほら、くりくりされるの好きなんですか?」
「っや、あ、ぁっ」
「もっとして欲しいんですか? つん、て上向いてますよ」
「ゃら、んっ、あっ、」
「はは、可愛いですね。つまめば腰を押しつけてきて、擦れば太腿擦り合わせて…我慢出来ないんですか?」
「―――ゃっ、そんなこと…!」
 片手を胸に残したまま、するり、とスカートの中へと手を入れる。抵抗しようとされる度にすっかりかたくなった胸をいじめてやれば、面白いように力は抜けた。
「ねえ、」
辿りついた指先の感覚に、笑みを浮かべて耳を喰む。
「ぐちゃぐちゃじゃないですか」
「…っち、が、」
「違いませんよ」
ほら、と目線の高さまでもってきた指は、てらてらと濡れていた。
「下着の上からなぞっただけなのにこれですよ」
「………ぁ、」
「履いて帰れないんじゃないですか?」
「………ッ」
ねえ、とまた耳を喰む。胸をいじめることをやめないまま、濡れた指を咥えさせる。
「きみの味ですよ」
いやらしい味がするでしょう、と言ってやれば、羞恥が限界に達したのかぽろぽろと涙がこぼれるのが分かった。
 でも、それくらいでやめてやれるようなら、最初から手など出していなかった。


花片は夜に融ける


 それが欲情だと気付いたとき、まるで世界がひっくり返ったかのような心地に襲われた。特別近くにいた訳でもない、女性的な記号に目を奪われたことがある訳でもない、ただ、薄ら暗いこの感情がふつふつと腹の底に蟠っているのだけは分かっていたから。
―――それに、
名前なんてつかないのだと思っていた、それがどうだ、今、この瞬間。解えが出てしまって、そしてそれはひどく簡単に手が届くもので。
 とん、と。
 ソファに押し倒した身体は思っていたよりも軽かった。
「油断してましたよね」
目を見開いて此方を見上げる彼女に、一体自分はどんなふうに見えているのだろう。笑っているつもりだけれど、ちゃんと笑えているのだろうか。
「無防備なきみを眺めているのも良かったんですが、そろそろ限界なので」
思ってもいない言葉はするすると出てくる。でもまったくよ嘘、という訳でもない。彼女は確かに油断していたし、無防備であったし、それをずっと眺めていたのも事実だ。今、それを自覚したというだけで。限界になったのも、欲情と気付いてしまったからであって嘘ではない。けれども当然彼女にとっては寝耳に水で、だからどうにか抜け出そうと身体の下で暴れられる。それには、はは、と乾いた声しか出なかったけれど。
「ボクの力でも抑え込めるんですね…。それ、抵抗してるつもりですか?」
何一つ、届かない。
 そう察したのか、やめてください、と細い声がした。いつもの彼女からは想像もつかないほど弱々しい声。
「…今更、」
そんな、声を聞かされて。じわり、と愛欲の焔が勢いを増すとは思わないのだろうか。
「やめると思ってるんですか?」
ひ、と喉が鳴る。悲鳴すら真面に出せないくせに、よく抵抗なんてしようと思ったな、なんて思った。
「抵抗なんて許しません。きみが泣いてボクに縋りつくまでやめませんから」
だから、出来れば早めに屈してくださいね?
 そう言いながらしたキスは、抵抗の言葉を封じた苦いものになった。

 何処に力をかければ相手が動けなくなるのか。そんなことは考えるまでもない、それが自分より力のない人間であるのなら尚のこと。簡単という言葉では済まされないほど簡単に、蹂躙は進んでいった。触れていないところも、キスを落としていないところもないような状態で、まだ首を振るだけの力が残っているのは素直にすごいな、とは思ったが。彼女だってマフィアなのだ、簡単に折れる訳にはいかないのかもしれない。
 片手で。
 押さえ込まれて好き勝手されるがままを許している、この状態ではどんな精神も無意味ではあったが。
「聞こえます?」
指の出し入れを続けながら、顔を上げてみる。涙をいっぱいにためて、羞恥に耐えながら此方を睨み付ける表情が、更に嗜虐心を煽るとは思わないらしい。
「ほら、こんなにぐちゃぐちゃになってる」
「ゃ、あ………ッ」
「良い、の間違いでしょう」
ここまで丁寧にしたからか、掻き出すような動きをしなくともソファに溢れていく。それを見ていたらもう良いかな、と思った。片手では外しづらいが、出来ないことはない。
「―――ぁ、や、」
「嫌じゃないでしょう? 欲しいでしょう?」
「ゃ、やだ、やめてくださ、っぁ、ゃだ、あ…っ!」
ずるずる、と揶揄うように擦り付けると、期待めいてひくついたのが分かった。腰もはやく、とでも言いたげに揺れている。口先ばかりだな、と思った。そのまま両手で腰を掴んでも、もう、手で押し返されるようなことはなかった。
「―――~~~ッ」
 一気に腰を落とすと、はく、はく、と唇が震えて背中が反る。なかはぎゅうぎゅうと苦しいほどに収縮して、必死で息を吐く。
「…っ、そんな、………締めないで、くださいよ、」
「―――ぁ、」
「挿れただけでイきそう…」
「ふ、ぁ、っあ、ゃ、」
「まあでも、きみはイッたんですから、それでも良かったんですかね」
甘えるように縋り付くなかを、ゆるゆると優しく甚振ってやる。余韻に震える身体がびくびくと跳ねて、唇からはもう意味のなさない嬌声ばかりが溢れ出る。
「ゃっ、」
そうやって律動をやめないでいると、反応が少しだけ変わった。同じ場所を丁寧に擦り上げると、悲鳴のような声が上がる。
「やだっ、ぁ、ゃ、らぁ…!」
「きみ、そんなに分かりやすくて良いんですか?」
「ぁ、ああっ、ゃ―――ッ」
「はは、すごいびくびくしてる…」
きもちいいです、と囁きかけるとまたびくり、と身体が跳ねた。もう何をしても気持ちいいのかもしれない。抵抗も消えてしまったし、ただ快楽に打ちのめされるだけになってしまった彼女がこのまま隷属してくれれば良いのに、と思う。
 くたり、と何度目かの絶頂に肩で息をする彼女から、一度、自身を抜く。これで終わりとでも思ったのか、小さく息を吐いたのが聞こえたがまったくもって終わらせる気などなかった。
「ほら、腰上げてください」
尻を持ち上げるようにして、膝を折り畳んでやる。膝裏に手を入れて、体勢が変わらないようにすればどうして、という視線が投げられた。
「これならきみにも見えるでしょう?」
「っ、ぁや―――ッ!!」
きゅう、と悦ぶように吸い付いてくるそこに、ゆっくりとまた、自身を埋(うず)めていく。それが余すことなくスリーの目に映っていることを認識したのか、あ、あ、と彩られる声に震えが乗って。
 でも、それが抜けていくのも、きっとあと少しだった。


嘘しかないこの夜を


 頭がくらくらしていて仕方なかった。否、こんなのはすぐに解毒しようと思えば出来る。出来る、が。
「―――」
「スリーさん…?」
目の前にいる彼女が、突然ふっと消えてしまいそうな気がして。腕を引いて抱き締める。
「えっ、うわっ!? スリーさん、どうし―――」
混乱しているらしいその首筋にキスを落とせば、流石に方向性を悟ったらしい。解毒薬、と言われるが気にしていられなかった。このまま―――推し進めてしまいたい。身体が、ひどくあつくてたまらなかった。
「っ、」
最後に引っかかったような理性でソファに押し倒す。抵抗は、多分あったのだと思う。でもそれはすべて無視して膝をつく。仰向けにさせられた彼女の口元に、自分のものを曝け出すのは簡単だった。
「ひ、」
させられることが分からない訳がないのだろう、きゅっと引き結ばれた唇を開かせるようになぞってやる。
「ぅ、」
 透明にこぼれたものが、彼女の唇を彩っていくのを見ながら、指を差し込んで強引に口を開けさせた。
「ァ………っぐ、」
「…せま」
歯を立てないように、と言いながら推し進めていく。苦しいのか、涙がじわり、と目に浮かぶのが見えた。でも、こうなってしまえばそんな反応だって興奮材料にしかならない。
「………が、…ッ、」
喉の奥まで挿れてしまえば、逃れるように身体が跳ねた。半分乗り上げているような状態で、彼女が逃げられる訳もなかったが。
「ほら、舌使ってください」
出来るでしょう? と頭を撫でてやる。喉の奥を突く度に苦しさが増すのだろう、少しでもそれから逃れられるなら、と思ったのか、舌がちろちろと動き出した。
「そうそう、上手ですね」
「―――っぶ、ぁ、ぐ…っ」
涙と、口を閉じられないことで溢れ出した唾液と。さっきまで普通の顔をしていたのに、もうぐちゃぐちゃだった。
「はー…きもちいいですよ」
「………ふ、っぅ、…が、ッぁ…っ」
「喉、もっと締めてください。ああ、そうです…きみ、こういう才能もあったんですね。知りませんでした」
「―――、」
 多分。
 見上げてきた視線は、睨んだつもりだったのだろう。けれども大した力も入っていないそれは縋るようなものにしかならない。酸素が足りないのかぼう、とした空気を纏い始めた彼女に、もういいか、と思って自身を引き抜く。
「ん、ぐ、…げほっ、ぁ、が、ッ」
苦しそうに咳をする彼女をそのままに、完全に力の抜けた両足を持ち上げた。
「ぁ、―――」
何か言おうとしたのだろうが、咳が邪魔で言葉にはならない。
 その間に、とストッキングと下着を剥ぎ取る。スカートを履いていたのが仇になったな、と思ったけれど、彼女だってこんなこと想定していなかっただろう。そもそもこっちだって想定外なのだ。
「………あれ、」
する、と指を辿らせると其処は熱かった。
「濡れてますね」
「―――ッ、」
「ボクの、そんなに美味しかったんですか?」
数度往復させてから、ゆっくり指を挿し込む。ぐちゅり、と音を立てるほど潤ったそこは、何なく指を受け入れた。物足りない、とでもいうようにひくり、となかが蠢く。二本目の指も簡単に挿った。びく、びく、と腰が揺れる。声はまだ、喉の調子が戻らないらしく、聞こえなかったけれど。
 これなら大丈夫か、と思って指を引き抜いた。
「指、抜いちゃったから寂しいんですね」
「………ぁ、」
「此処、ひくひくしてますよ」
「―――…そ、んな、こと…」
「大丈夫ですよ。ちゃんとあげますから」
ひたり、と熱を充てがう。やだ、と聞こえたけれど、腰ははやくなかに欲しい、とばかりに揺らめいた。
「素直じゃありません…ねっ」
「―――~~~ッ!!」
望み通りに、と挿れてやれば、限界を迎えたのか身体がしなった。けれども動きを止めることはしない。
「ゃ、やら、ぁっ、すりー、さ、」
「嫌じゃあないくせに」
まだ掠れている声が、余計に色を感じさせる。強引に抜き挿しを繰り返すと、細かく達しているのか悲鳴のような声ばかりになった。触れていなかったな、と思ってワイシャツのボタンを外して、その下の下着も剥ぎ取る。暴力的な性感に晒された胸は、ゆるくたちあがっていた。くりくり、と指で摘んでこすってやる。
「ゃ、ああっ、…ゃら、それ、や、め…っ」
止まっていたはずの涙が再び溢れ出す。
「泣くほど気持ちいいんですか」
「ゃ、は…んんっ、あ、ぁんっ、ゃ、」
「嫌って声には聞こえませんけどね」
「ら、め、ぁ、ッ………ンッ、あ、や、ぁ―――っ」
「弄られながら突かれるの、そんなに気持ちいいんですか」
「ち、…が…っ、ゃ、アッ、んぅ、あんっ、ゃ、」
「弄る度に、こっちがぎゅうぎゅう締まるのに?」
「ゃ、あ、…はっ、ぅん…ぃ、わない、で、…っくだ、さ…っ」
「言わないで、ってことは自分でも分かってるんでしょう? なら言わないと。気持ちいいって」
「ゃん、ぁっ、らめ、」
「ほら」
「ゃ―――~~~っ!!」
 強く摘めば、それだけなかがうねる。そんな反応の中で特に弱そうなところを突いてやれば、腰が浮き上がった。でも、それで逃げられるようなこともない。寧ろ自分からいいところに当てるかたちになっている。
「ゃ、やあっ、ぁ、ぁんっ、んんっ、ゃ、」
「ほら、言ってください。言わないとなかに出しますよ」
「―――ぁ、らめ、…ンッ、ぁ、ゃら、それは、…っだ、め、です…っ」
「………だめじゃなさそうですけどね」
「ゃ、あ、は…んっ、ぃう、いぃます、からっ、それは、ッ」
きゅうきゅうと甘く、欲しがるように締め付けて来られるとそれはそれで邪魔したくなるもので。
 身体を倒して、舌を伸ばす。
「き、―――っひゃあ!?」
かたくたちあがったそれは、舌で弄るとこりこりと反応を返してきた。もう片方も指で擦り続ければ腰ががくがくと震えるのが分かる。
「舐められるのもすきですか?」
「ぁっ、ゃあッ! は、ぁあっ、んんっ、ゃ、」
「気持ちいいって認めないなら、なかに出して良いってことですよね」
「ゃ、ち、…っあ、ぁんっ! ぁ、やあっ! き、っァ、い、っ…! ゃ、んんっ!」
「喘いでるだけじゃあ何言いたいのか分かりませんよ」
尚も必死で言葉を紡ごうとする唇に噛み付くようにキスをする。そのまま、いちばん奥に擦り付けるように腰を動かす。
「―――っ、~~~、」
「は、………」
どくどく、と吐き出したものをもっと、とでもいうように縋られた。ゆるゆると奥へ押し込めている、その動きだけでまた硬度を取り戻す。
「ねえ、」
 なかに出されて、同時に達して。呆然としていた彼女の頭を撫でてやる。
「きみのことが好きです」
「………ぇ、」
多分、これは最初に言うべきことだった。驚いたように目が見開かれる。
「だからもうちょっと―――きみの可愛いところ、見せていてくださいね」
でも、どうせ叶わない恋であるのなら。
 それを今から一晩かけて本当にするしか、道はないのだ。



https://shindanmaker.com/596812


終焉と燃えゆく果実


 これは嫉妬だ、というのは分かっていた。分かっていたし、そういう感情が起こるのも仕方のないことだと思う。思う、けれども。
「スリーさん?」
具合でも悪いんですか? と訊ねてくる彼女が、自分の他にも隔てなく接することは知っていた。普段であればそれだって、飲み込むことが出来るのに。
「―――っ、え、?」
身体が熱い。飲み合わせが悪かったのか、媚薬効果にも似た症状が出ているのだろう。そんな状態で自分を律することなど出来やしない。
 気付いたら、彼女が眼下にいた。手首を掴まれ、膝で身体を押さえ込まれ。
「す、りー…さん…?」
一体何を、と青褪める彼女は、本当は分かっているのだ。だからこそ、会話で逃げ道を探そうとしている。
「きみが―――煽るから」
でも、そんなことを許すつもりはなかった。
「ボクだって男なんですよ」
きみが悪いんです、と呟く。そんなこと、と彼女が言葉を探している。
「きみの所為ですから」
「な、―――」
何を、と言おうとした唇をキスで塞いだ。押さえつけた身体は暫くじたばたとしていたけれど、スリーを退かすまでには至らなかった。

 は、と自分の笑った声が聞こえる。
「聞こえますか?」
指をばらばらと動かす度に水音が上がった。ここまで随分時間をかけたけれど、こんなにまでなってくれるならその甲斐もあったのだろう。
「ほら、ぐちゃぐちゃ言ってる」
「―――ッ、」
「これなら、困ることはなさそうですね」
指を引き抜いて、それからぼうっとしている彼女のそこに充てがう。これでも我慢した方だ、もう熱くてたまらない。充てがった先はぬるぬると滑って、何もしなくてもものを飲み込んでくれそうですらあった。それも、きっと楽しいだろうけれど。
「ゃ、それだけは―――」
今は、そういう気分ではない。
 力のない指が止めるように伸ばされたのを無視して、一気に腰を落とした。
「ぁ、あ―――ッ」
悲鳴のような声があがったが、それが痛みによるものだとは到底思えなかった。腰が浮き上がり、背中が反るのを眺めながらゆっくり、ゆっくりと引き抜くと、なかがきゅうきゅうと恋しがるのが分かった。吸い付くような感覚にまた、笑みが溢れる。完全に抜ける手前で止まってやると、ひく、と物足りなさそうになかが震えた。
「欲しいですか?」
「ァ、………」
「欲しいですよね?」
答えは、なかった。
 けれども要らない、と言えない程度には気持ちよくなっているのだろう。勝手にそう判断して続きに戻る。なかの凹凸の一つひとつを余さず味わうようにすれば、自然と快楽が蓄積されていくのか、彼女はもう、喘ぐことしか出来ないようだった。はくはく、と酸素を求める唇が可哀想でたまらない。
「気持ちいいですよ」
ひく、と答えるようになかがまた、震えた。上の口より下の口の方が素直、というのはこういうのを言うのだろう。ひく、ひく、と縋り付いてくるようなそれを楽しみながら、ゆっくりと抜き差しを繰り返す。細かな絶頂を繰り返す彼女の名を呼んでやりながらキスをしたら締め付けがきつくなった。それが欲しがられているように感じられたので、そのまま出す。
「気持ちいいですね」
いい子いい子、と撫でてやれば判断力を霧散させるのに一役買うのだろう、瞼が半分、閉じられる。
 それを眺めながら、まだ夜は長いことを言葉にするのは勿体ないな、とだけ思った。



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