初夏の羽撃き、こがねの希
現代に暮らしているからには電車に乗ることくらいある。
都会に住んでいれば大体の移動手段は電車になるし、車のことなんて考えただけで眩暈がしそうだった。そもそも置く場所がない。そういう狭苦しい土地に暮らしている月島にとって、電車は生活に欠かせないものだった。とは言っても毎日乗る訳ではない。時折支社に出向する時に使っている、それくらいで。だから、まあ、正しく言うのであれはそれなりに生活に欠かせないものだった、と訂正するべきだろう。
細かいことはさておき。
その日、月島は電車に乗っていた。人がひしめく車内の不快度は数値に表すことは出来なかったけれど、それでも不快なことには変わりない。
そんなふうに心の中で神を呪っていたからか、投げやりに幸福はおとずれた。目の前の席が空いたのだ。他に座らねばならなそうな人間がいないことを確認して、それから座る。ふう、と息を吐く。ラッキーだ。するとすぐに横の席もあいて、人が入れ替わった。まあ、そういうこともある。こんな、多くの人間が使う電車だ。座席はいつだって争奪戦なのだ。
横に座った顔は見知らぬものだった。だと言うのに大胆にもその男は手を伸ばして来て、そして月島の太腿に触れる。そうしてそのまま尻の方へとぐいぐい手を進めると、遠慮などなしに撫で回してきた。狭そうではあるが慣れきった手のように感じられた。
―――抵抗、しなくては。
こういうものは抵抗しなさそうな人間を狙うのだと言う。ならば、抵抗してやれば良い。そして距離が空いたところで逃げるのだ。抵抗して離れたからと言って安心してはいけないと月島は知っていた。手を動かしてなんとか押し返す。触るな、と睨めつけてみた。こういう時、諦めた方が負けだ。諦めなければ逃げ切れる。出来ることなら捕まえた方が良いのだろうが、一人じゃあ出来ることは限られてくる。周りは協力してくれそうには見えなかった。なら、逃げることを優先すべきだ。
そうして幾らか抵抗を繰り返していると、男は諦めたのか立ち上がった。月島はホッと息を吐く。諦めたのだろう、抵抗が功を奏したのだ。あとは次の駅で逃げるだけだ。表示板を見る。あと、二分。二分なら大丈夫だ。
そう、油断していたから。
男が距離を取ったのではなく、月島の目の前に陣取っただけだったのに気付くのが遅れた。
「…えっ!?」
ぐい、と腰を掴まれて浅く座らせられる。尻が少し、浮き上がるような体勢。そして男は躊躇いなく、その月島の肉付きの良い尻に顔を埋めた。
「は、ん…っ」
下着とストッキング越しに、男の舌が無遠慮に這い回る。月島のその窄まりを刺激するように尖らされた舌の動きだとか、男の息だとか、ふいに吸い上げられるような水音だとかがやけに耳について。
「や、ぁ…♡」
頬が熱くなる。じゅん、と下腹も熱くなる。嘘だ、と思うけれども身体は正直だった。どくどくと血が騒いでいる。
こんな場所で、と思う。周囲には人がいるのに。
―――誰か、助けて。
そう思って顔を上げると。
「………ひっ♡」
無数の目が、月島を見下ろしていた。じっと、月島の痴態をその目に焼き付けるかのように。
「や、っ♡………ァ♡」
男もそれを分かっているかのように、大胆にも月島の脚を押し広げた。下着が濡れているのが周囲に晒される。密やかに笑いが伝播していく。ぐちゅぐちゅ、という水音と電車の規則正しい車輪の音が絡まり合って、脳さえも犯されているような心地。
「あっ…♡ゃ、あ♡」
電車が止まって、逃げなければ、と思う。多少の乗り降りがあって、でも月島の周りはただただ囲まれるようにして。身体が言うことを聞かない。プシュー、と何処か間抜けな音で扉が閉まった。降りられなかった。
―――でも。
「あ、ぁ♡…ゃ、んっ、ぅ…♡」
恐らく、次の駅で扉が開いても、月島は降りられないのだろう。
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