プラスチックの恋


 鏡があると便利だな、と思う。前世でも小さいと言ったらそうだっただろうが、こんなふうに持ち上げることは出来なかっただろうな、と思う。まあ、前世でもこういうことをしたかったかと言うと―――少し首を傾げてしまうのだけれど。あの頃の月島というのは絶対に手の届かない存在であって、泥にまみれているくせに何処か戻るところを有しているような。それに自覚がないのだから本当、どうしようもなかったのだろう、と気付いたのは生まれ変わり、なんてものをしてみてからだったけれど。そもそも人間、死んだら終わりだと思っていたのにこんな二度目のチャンスが来るなんて、この尾形が正直どっちなのかも、怪しいのに。
「見えてますよね? 軍曹殿」
そんな境界線の怪しい尾形とは裏腹に、月島の境界線ははっきりしていた。丸い肩、細い首筋、何もかもが前とは違う―――女として生を受けた、月島。それを見つけた時の尾形の胸の、あの高鳴りは一体何だったのか、今でも分からないけれど。
「あーあ、勿体ねえ」
 じゅぶ、と慣れきった音がする。男と女というのはそういうことをするのにひどく、適していて、だから月島が女になっているというのならば、こうなることは必然のような気がして。柔軟かな身体は脚を大きく開かせても痛がらない。下から突き上げられるのはいつもと違った快楽を齎すのか、もうその頬に理性が乗っていることはない。
「そうやってアンタ、生命を無駄にするんですね」
それでも、月島は尾形から意識を外せずに、ぼろぼろと涙を流す。前世では絶対にやらなかったであろう、仕草をしてみせる。
「アンタでしたよね、俺に米粒の一つにも神はいるのだからと言ったのは…」
 屈強で、手の届かなかった月島は何処にもいない。もう、それは分かっているのに。
「思ってもいないことをよく言うものだと思っていましたが…」
耳を食んではまた中へと吐き出して、月島の中から溢れてくる白濁に笑って。
―――このまま、
 月島が孕みでもしてくれたら、答えが出るような気がしていた。
 本当に出るのか、確証なんてなかったけれど、そう思っていた。


この世の美しいものをすべて飲みこんで


 ずるずるとした動きにももう慣れたら良いのに、と思う。一応これでも合意の上の行為のはずなのだけれど、どうにも犯しているような感覚とおさらば出来ない。まあ、抱いている方が尾形であるので仕方ないのかもしれなかったけれど。この感覚が何かしら一般的なそれらとはかけ離れているのだと、そういう自覚くらいは出来るようになっていたのだし。
―――もし、
と思う。
 もし、本当にもしもの話。月島がこう≠ナなかったら。逆になることもあっただろうか。そう考えてみて、いや、と一人首を振る。そういうことは出来そうになかった。別に月島が、この現代において女のかたちを授かったからこうなっている、という訳でもないのだ。やりやすい、とは思うけれど、ただそれだけと言えばそれだけだった。男だろうと、前世と同じようであろうと、抱きたいと思うのは変わらなかっただろう。
「ア…―――〜〜〜ッ、」
悲鳴じみた声が上がる。本当に犯しているみたいだ、と思った。おがた、と泣くような声が聞こえる。喘ぐ、とだけ言い切るにはあまりにも切羽詰まった声だ。
 軽い身体は抽挿に浮き上がって、自分からいいところを擦り付けてくる始末なのに。
「おか、ぉかしく…っなる…ッ」
「なってくださいよ」
こんな、一方的に被害者のような顔をされても困る。
「それで、俺のことだけしか考えられんようになってください」
―――もっと、
 欲しくなってしまう、なんて。
 言えずともきっと伝わっているのだろうな、と腰を掴む。月島の好きな奥をえぐるように動くと、だめ、と言葉が溢れていく。でもそのだめ、が良い、の言い換えでしかないことをもう、尾形は知っていたから。
「月島軍曹」
「―――っ、」
ひゅ、と鳴った喉の下、快楽に打ちのめされた身体が月島の意志を離れて震えている。
 ここで愛していますよ、だとか言えないのがきっと尾形で、だから続きを示すには求められるだけの快楽を与えてすべてまっさらにしてやるしかないのだ。