雛鳥は巣から落ちる


 何をしている、と問われれば何をだろうなあ、と思うのだと思う。そういう目で見たことがあったか、と問われればなかった、が正しい答えだとは思うのだけれど、どうにもその姿を見てしまえば結果は変わってくるもので。今まで、そういうものを見たことがなかった訳じゃあない。だと言うのに、放っておけなかった―――それにしては、酷い遣り方になっている、と思うけれど。
 解毒行為だから、という大義名分を彼が何処まで受け入れているのかは分からない。治療の邪魔だから、と言って腕を縛り上げる必要があったのか、それこそ毒を―――媚薬なんてものの類を盛られたからと言って分からないような男ではないと思っていたけれど。何とか机に上体を倒して膝に力を入れようとしているさまを見ていると、癖になりそうだ、と思う。
「だーんな、」
「………ぅ」
「ちょいと引っ張るぜ?」
「…ぁ、」
拘束した腕を引けば、今まで無意識に逃げていたものを引き寄せることになる訳で。
「―――、」
「旦那、だせた?」
「ァ、………ぐ、」
「これすき? なか、ぎゅってなる」
「…こ、れは、」
「うん?」
 種族が違っても、肌のぶつかる音は同じだ。激しさを増す乾いた音と、比例する水音。ぐっと奥歯を噛み締めているだろうのが、背中側からでも分かる。
「医療、行為…なんだろう、」
先にそう言い出したのであればそれを守れと、その男はそんなことを言ってみせる。吐精の余韻にすら浸れない、そんな戯言なのに。
「―――そーだよ」
「なら、」
「でもついでに取れるデータは取ったとしても、ばちは当たんねえだろ?」
それでなくてもアンタにデータは少ないんだから、と再び大義名分を掲げる。そうしたら彼が、それに沿うてくれることを知っていて。
 こんな熱にくらくらと、酔ってくれるようなひとであったら良かったのか。
 でもきっと、そんな彼だったらこんなことをしようとは思わなかったのだろうと、そういうことだって分かっているのだから、どうしようもなかった。