二十七時のきみは誰のもの


 随分順応したな、と思う。それは彼女の中では生きる術でしかなくて、別に相手がスリーでなくてもこうなったのではないか、とは思うけれど。それでもこういうことを初めてしたのがスリーであること、そして今も出来ているのがスリーだけであることは疑いようもなかった。
 くぽ、という軽い水音に腰が焦れったいというように浮かされた。意識の外にあったはずのそれを、彼女はすぐに捕まえて、それからなんとか引き戻される。揺れそうになる腰を、必死に意識だけで食い止める。尋常な精神力ではないな、と思った。それくらいでなくてはマフィアとして生きていけない、と言われたらそれまでだけれど。髪を撫でてやるとぎ、と睨め付けられる。それがスリーを喜ばせることになると分かっていて、やらずにいられない彼女の無様さが胸をくすぐって。
「きみも、そろそろ認めたら良いのに」
飼い慣らした身体は、彼女の意に反してぐずぐずと快楽を追い求める。押し留めれば押し留めるほどあとになって決壊する速度がつくというのに、それを学習しないような頭でもないのに。
「気持ちいいのはそうなんでしょう?」
ねえ、と耳を食めば、躾けられたようにきゅう、と締まった。
 期待、と。
 それを呼んだらそんな訳がない、と返されるだろうけれど。
「はは、足りないって言ってる」
焦らすように浅く抜き差しを繰り返し、敢えて敏感な芯には触れないようにして。少しずつ、追い詰めていく。自分の言葉で言わなければならないと、そういうふうに順応したのだと、彼女が認めるのはいつになるだろうか。ひどく、気が長いはなしだった。どれほど時間がかかるか分からない、一生ならないかもしれない。それでも―――抗い続けるさまを、見ていたい。実のところ、スリーは自分がどちらを望んでいるのか分からなかった。
「きみの身体はこんなに素直なのに」
身体を許す羽目になったのは単純にスリーの方がうわてだったからであって、未だ彼女は了承してはいない。手は変わらず冷たいままだったし、何もしていない時の温度だってよく知っていたから。ぐず、と腰がまた、揺れかける。彼女がまた目に力を入れて、でもそれが快楽に侵されては蕩けるようになっていくのを眺めている。
「きみがもう少し素直になってくれたらやりたい体位がたくさんあるんですが」
「………わたしはないです」
「きみの顔が見れないと、なかなか…勿体ないことをしてる気分になってしまうので…難しいですね」
「会話しろ…」
「あっ、そうか。鏡とか用意したらちょっとはやれること増えますね!」
「もう何も思いつかないでもらえますか?」
―――手は、
やっぱり、冷たい。
 それがとても嬉しくて、最奥まで一気に突き挿れた。
「―――〜〜〜ッ!!」
散々焦らされた身体はしなり、待っていたと言わんばかりにスリーを締め付ける。あ、あ、となんとか吐き出されたような息が、それでも嬌声に色付いているのを聞きながら、笑ってみせた。
「奥、気持ち良いでしょう?」
「―――、ぁ、………っ、そん、な、こと…な、〜〜〜ァ、………!」
「ここまで来ると少しくらい乱暴でもイけるんですよね。というか、乱暴な方がイきやすいくらいですか?」
「ぁ、ちが、………ッ、ゃだ…! あ、ァ、…っんんぅ、う、」
「はは、スパン短くなってきた。そろそろイきっぱなしになりますかね? このまま癖になってくれたら良いんですが」
「ぁ、………ア―――、っ、ッ、」
 肌のぶつかる音。身体の奥を暴く、ごちゅ、という音。その隙間に挟まれる、彼女の逃げ道を剥ぐような反応のことをきっと、愛おしいと言うのだろう。いやだ、やめろ、と譫言のように呟かれるのを舌で絡め取ってやる。近くなった瞳に乗る表情が、達する度にぱきん、と音を立てて変わっていくようで。
「ふふ、」
びくびく、と打ちのめされる四肢を眺めて、また指を丁寧に絡めて、その冷たさを確かめて。
「きみの、どうしようもないいやらしさを引き出すのが、本当に楽しくてたまらないんですよ」
 返答の代わりに、ぼろ、と涙が押し出される。
 それが勿体なくて舐め上げても、もう、何も言われなかった。糸が切れたように掠れた嬌声が吐き出される中、一瞬我に返ったのか、だいきらいです、と呻かれたのが本当に無様で、まだ抗っているつもりなのが分かって、本当の本当に嬉しかった。