現と夢をつなぐもの
目を開けたら窓のない部屋にいた。座敷牢、というものだろうか。ぼうっとする頭で暫く考えていたものの、何も分からない。ただ自分の名前が白樺であること、此処にいることに心当たりがないこと、それくらいで。記憶喪失、とは違うような気がした。何か、意識にもやのかかったような。
かたん、と音がして、座敷牢の外から誰かが入ってくる。暗くて、よく分からない。その影の輪郭すら定まらないのに、何故か男だと分かる。
「―――だ、れ?」
もやのかかった意識では、掠れた声しか出なかった。身体が重い。男はまるで心配するかのように屈んで―――それから、唐突に身体に触れてきた。
「………ッ!」
生きているか確かめるようなものではない、この身体の性感が何処にうずまっているのか―――それを探ろうとするかのようなもの。
「さわ…らないで…!」
なんとかその手を除けようとしても、身体は大して動かない。男の手が這い回ることで、自分が着物を着ていることに気付いた。でも、何を着ていてもこの状態では意味がない。寧ろ、着物など動きづらさが増すだけなのではないか。
ふふ、と喉のなる音がした。目の前の男の声だった。
「少し触れられただけで身体を震わせて…それでよく、触るななんて言えたね?」
震えていると言うのなら、それは顔も見えない男に突然触られたことへの恐怖だ。
「君はこんなにも私を待ち望んでいたのに、それを隠して私を責めるのか…責任転嫁はよくないよ。君が、私をこんなにも望んでいるんだ」
そんなことは、絶対に、ない。
「君は私に触れられるのが好きだし、君も私に触れるのが好きだ。君はそういう人間なんだよ。触れられるだけで期待をし、はしたない妄想で身体を震わせるような人間」
男は欲望を勝手に手に擦り付けてきた。あつい。…気持ち、悪い。そう思ったはずなのに、口からこぼれたのは吐息のような音。まるでこれでは男の言うとおりであるようなのに。
首を振っても男は喜ぶだけのようだった。頬を掴み、接吻けをしてくる。逃げようとしても執拗に追いかけ回され、舌を絡ませられ、吸われる。それだけで脳の奥に稲妻が走ったような心地になった。そんなこと、ある訳がないのに。こんな、顔も見えない男の汗の匂いの中で、気持ちよくなることなんか。
「そんなに触って欲しいのか」
接吻けの合間に男が言葉を落とす。動いた所為か、着物の裾から自分の足がこぼれているのが分かった。カッと頬が熱くなる。こんな、はしたない格好をさせられるなんて―――この先にそんな思考よりもずっとひどいものが待ち受けていると知っているのに、そんなことを思ってしまう。
接吻けは止まない。言葉を奪うように、抵抗を留めるように。男の手が裾から這い上がって、それから太腿を撫で回す。
「溢れているね」
「ン―――っ、」
「まるで漏らしたみたいだ」
否定したいのに、肉厚な舌が邪魔をする。ん、ん、と必死で息をするけれど、それに集中してしまえば他はおざなりになる。
「ひゃ、ぁ!?」
這い上がりきった指がつつ、と其処を滑っていった。ぬるり、とした感覚がより一層鮮明になる。こんな、意識は未だもやの中であるのに。
「きゅうきゅうさせて、本当にはしたないね」
つぷつぷ、と男の指が遠慮という言葉とは無縁に這入り込んできて初めて、下着に類するものを着付けていないことを知った。可笑しい、絶対に何かが可笑しいのに、何が可笑しいのかも言えなくて。
「脚、開いてる。もっと欲しいものがあるんだ?」
「あ………」
「大丈夫だよ、ちゃんとあげる」
指で乱雑にかき混ぜられただけなのに、身体の準備はとうに出来上がっているようだった。
男がぬるり、と擦り付ける。あつい。気持ち、いい。
「ゃ、めて…」
「嘘はよくないなあ」
先端がゆるゆると行き来し、その絶妙な加減に腰が揺れる。
「ほら、挿れて欲しいんだよね?」
「ぁ………」
「ほら、本当のことを言おうか」
「ゃ、あ………っちが、ぅ…」
「何が違うのかな」
男は腰を掴むようなことはしなかった。ただ、脚を広げているのに必要な支えをしているだけ。ゆるゆる、と行き来するもののあつさが恋しい。
―――この先に、
どんなものが待っているのか、知っている。ひどくて、残忍で、でもとても―――きもちの、いいこと。
「ァ―――………」
揺れる、腰が。
「いいの?」
「ぅ、あ…はぁ…ん、」
「挿っちゃったけど」
「あ、あァ………」
「でも君が挿れたんだから、仕方ないのかな」
勝手にそれを引き入れた。
ぱちん、ぱちん、と弾ける。それはきっと快楽だ。こんな、顔も見えない男なのに。腰は揺れる。自分で、呼んでしまった。男は合わせに手を入れ、胸を露出させる。
「大して触ってないのに勃ってる」
「ゃ、あ…っ」
「本当に嫌なら腰を動かすのをやめることだね」
そう言いながら男は身を倒し、そのまま胸にしゃぶりついた。
「ァ、あ―――!」
「こうされるの好きだよね。腰もよく動いてる」
「ゃ、めてぇ…っ」
「君の嫌、や、やめて、は逆の意味でも持つのかい?」
こんなに確かなことは一つもないのに、溢れた蜜は動きを潤滑にさせる。じゅる、と音を立てて男が吸い付けば、その性感で身体すべてが揺れた。
「ぁ…、あ………」
「イけたかな」
「そん、な…」
「悲しそうな振りをするくらいなら、腰を動かすのをやめなさい、とさっきも言ったよ」
ほら、と男が腰を掴む。それでようやっと、身体は止まった。
けれど。
火照るものは消えなくて。
「ぁ、あ―――」
「さあ、どうして欲しい?」
ずくずくと、脳が溶けていく。思考が失われて、理性が削げ落ちる。
「も、もっと…」
「うん」
「奥…っ」
「うん。奥を?」
「―――ぁ、」
ずるり、と先へ進んだ熱に、恐らく浮かんだのは笑みだった。
「奥を、どうして欲しいんだい?」
言ってごらん、と男は優しさに似た声を出す。それが優しさなどではないことを、分かっているのに。
「―――ぐちゃぐちゃに、突いて…っ」
そういうシナリオだったようにこぼれた台詞は、直ぐに希望通りの快楽で白く、染まっていった。
目を開けたら其処はいつも通りの部屋だった。自室。畳の良い香りがする。
―――そして、他人の匂いも。
「………」
「先輩」
妙な夢を見ていたのはこの美しい後輩の所為であることは、最早確かめることをしなくても分かっていた。
「さて―――先輩?」
うっそりと、その唇がやわらかく、花が咲くようにわらう。
「秋穂に、一体どんな淫らな夢をみたのか、お聞かせいただけますか?」
夢の中のそれとはまったく違う、蕩けるような仕草に、あの馬鹿馬鹿しい夢を一つ残らず語ってしまうだろうことは、誰に聞かなくても分かっていた。
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