陽のあたる窓から
厄介ごとを惹きつける才能でもあるのだろうか、と思う。時折どうにもそういった気配を感じさせる人間、というのはいるけれども、彼女がそうであるのか、と問われるとどうだろう、と首を傾げることになる。そんな気配は感じたことはないが、スパンがどう贔屓目に見ても短いことからするに、やっぱりそういう才能があるのだろうか。
涼しい薬品倉庫で。
棚に縋り付いて息を整えている姿はどう見ても通常のそれではなかった。頬は紅潮し、息は乱れ、目は潤んで涙がこぼれていないのが不思議なくらいに。また媚薬の類でも盛られたのだろう。まあ、盛られたと言うとまるで彼女に最低限の危機管理能力もないように聞こえるだろうから、打たれたと訂正はしておくが。
「う、ゎ…」
嘘だろう、と言いたげな顔に欲がひしひしと満たされていくのを感じる。必死に棚に手を伸ばそうとするが、もう随分薬が回っているのか、服がこすれる感覚でもつらいようだった。まるで自慰行為を見せられているようだ、とでも言ったら止めるのだろうか、いや、彼女であればきっと、そのいっときの恥を優先させるだろう。そういう人間であるのは分かっていた。
「見つかったのがボクで良かったじゃないですか」
「ぅ、―――」
「それとも別の人間に犯されたい願望でも?」
「ン、な…っもの、」
「ですよね。これでも一応ボク、一途ですので浮気とか許したくないですし」
「うわ、き、って…」
会話をしながら棚から引き剥がす。力の入ってない身体は熱くて、よく此処まで歩いて来れたな、と思った。
「げどく…」
「そんなことしたら面白くないじゃないですか」
「クッ…ソ………」
目の前に解毒薬があるのに、それを手に取れないで抱え上げられるというのはどんなに悔しいだろう。だから笑って大丈夫ですよ、と言う。
「ボクの部屋なら誰も来ませんから」
何も大丈夫ではない、という顔をしただろうのは分かっていたが、それを聞き入れてやる理由は一つだってなかった。
もう身体は出来上がっているようだった。部屋に運ぶまでの時間で、するすると撫でてやると、それだけで細かく達しているようだったし。準備は必要ないだろうな、と思ってベッドに放り投げて、そのままズボンも下着も剥ぎ取った。想定通り充分に潤ったそこに、何も言わずに突き立てる。
「―――ぁ、」
いつもであればそれなりに時間をかけねば飲み込むこともままならないくせに、嘘のようにずぶずぶと飲み込んでいくのだから。簡単に奥まで届いたのをいいことに、とん、とん、と焦らしてやると、泣き声のような嬌声が上がる。
「ひ、ぅ…」
びくびく、と震える身体。ぎゅっと瞑られた目。
「んっ」
いつもであれば何とか自分を認識していなくては、と必死になる彼女が今、どれほど異常な状態に置かれているのかよく分かるようだった。
「ひゃ…っ、ンッ、ぁ、あ…っ」
「気持ちいいですか?」
「あ―――、っ、んんっ、ん、…」
「こういう声も時々だったら悪くないですね」
「ぁ、あ…んっ、ひゃう………ッ、あ、………あー………っ」
動く度に焦れるような性感が広がるのか、涙がぽろぽろと押し出される。
それを見て少し動きを止めてやると、ゆっくり、瞼が押し上げられた。
「ぁ、…あー………」
とろとろと焦点を失った瞳が彷徨いている。まあこうなるだろうとは分かっていたから良いのだけれど。腰が拙く揺れて、せき止められた快感に手を伸ばす。普段であれば追い詰めて追い詰めて、それから取引でも持ちかけなければされないような仕草が、こんな薬一つで可能になってしまうのは少し、物足りない心地がしたけれど。
「ボクですよ」
「ぅ、う―――」
「ああ、なんだ。分かってはいるんですね」
力はないが、それでも睨まれているのは分かった。その目が興奮に拍車をかけるのだと分かっているだろうに、やめられない彼女のことは本当に惨めだと思う。
「きみ、こんなになってまでも諦めないんですね」
「………ふ、ぅ…」
「意識飛ばした方が楽でしょうに」
「そ、んなこと、したら、………」
その先は続けられなかったけれど、恐らく死ぬだとか、そういう言葉が続いたのだろう。今まで何度か意識を飛ばしてやったことはあったはずだし、結局死んでないから彼女は今此処にいるというのに、どうやら未だ信用されていないらしい。そもそも大嫌いだとは言え、それだけの理由で殺そうなんてことは思わないし、彼女に対してだって一度も思ったことはないのだけれど。
―――彼女は、
何度も思っているようだから。それこそ自分に対しても、その他彼女を食い物にしてきたものたちに対しても。
己の内にあるものを、他人の内に見ないでいることは難しい。特に彼女の場合、なかったとしても見ておいた方が良い場合の方が多いような事案なのだから尚のこと。
「ボクのこと、嫌いですか」
「…っ、きら、ぃ、です」
「その嫌いな相手に腰振る羽目になってる気分はどうですか」
「さぃ、って…ぇ、」
「ボクは今最高になりました」
「クソが…」
悪態をつく彼女が別に変わった訳ではないのが分かって、抱き上げる。その動きで一度抜けたものをもう一度挿れると、もう離さないとばかりに身体が震えた。
「ほら」
腰と背中を支えて、抱き締めるようにしてやる。
「こっちの方が動きやすいでしょう?」
「たのんで、ま、せ…ん、」
「頼まれてませんからね」
でも、今はこっちの方が良いでしょう?
その声が聞こえているのか、いないのか。
涙と共にゆらゆらと腰が揺れ始めて、そのまま快楽を貪るような動きに変わっていく。
「ボクのこと嫌いなのに、」
「ッ、―――」
「本当に、惨めですね」
もう返ってくるのは嬌声ばかりかと思っていたけれど、それに紛れて死ね、と返されて、嬉しくなってしまったのは言うまでもなかった。