透徹の悪夢
脳がちかちかとする。ずるずると、他人が自分の身体に出入りを繰り返す感覚なんて、覚えたくなかった。しかも、こんな男によって、刻みつけられる、なんて。悪夢も良いところだ。
前世の、記憶なんてものがあるだけでも悪夢なのに、どうしてこうなったのだろう。月島は、前世での、明治での月島基軍曹は間違いなく男で、だからこの男、尾形百之助に恨まれこそすれこんなふうに抱かれるようなことは、なかったはずで。好意だって存在していたとは思えなかった。偶然見つけた月島が女の身体に生まれ変わっていたから、というのは違うのだろう、と思う。ぎちり、と縛り上げられた手首が軋む。痕になりますよ、と尾形が耳元へとキスを落としてきた。耳朶をいたぶるように噛まれる。一つひとつの仕草は人間をうまくやれなかった男そのものなのに、どうにも現代に即しているようなやわらかさが抜けない。
「はは、かーわい…」
興奮の色を確かに含めて、尾形は言う。可愛い、なんて。絶対に思ってもいないだろうに、ただ、前世で絶対に敵わなかった月島が女という、どうしたって身体能力では男に劣ってしまう、いきものになっていたから。丁度いい、と思っただけなのだろう。月島には尾形のことが分からない、でも、愛だの恋だのでこんなことが出来る男だとは思えなかった。掌が、いたわるように頬に触れる。あたたかい。尾形のくせに。
「俺のこと怖いですか? まあ怖いですよね…アンタを犯してるんですから。でも、こんなやつに、とも思っているんでしょう。ああ、ご安心を。俺とて女体の仕組みは知っていますから、アンタが今濡れてんのは防御反応だって分かってますよ。…でも恥ずかしいんですよね。分かりますよ。俺なんかに全部暴かれて、見られたくないところ見られて、聞かれたくない声聞かれて…はは、そういうのでぐちゃぐちゃになったアンタが、この上なくかわいい…」
ずちゅ、と嫌な音がした。初めてというのは痛みがどうしても伴う、と聞いていたのに痛みは一切なかった。大丈夫ですよ、と尾形は言う。繰り返す。気持ちよくしますから、と。月島としては気持ちよくなんかして欲しくないし頼んでもいないのだから、その手をどうにか振り払うしか出来なくて。
「まだ抵抗する気力あるんですね」
嬉しそうに、尾形は言う。
「どうしようもないって分かっていながら抵抗を続けようとするアンタはかわいいですよ」
「、ふっ、………ァ、ッ、ん、」
「ずっと防御反応だけだった、って思っていたいんですよね」
「ぅ、ぐ………っ」
「気持ちよくなったら合意みたいなものですし」
「…ば、かな、こと…ッ」
「言いますよ。他でもないアンタにだから言うんです」
「ッ、ぅ………っ、あ、ンッ、ん、ぅ、」
腰を掴まれているとは言え、逃げ出せないことはないはずなのに。
脳がちかちかとしていた。奥を奥をと叩くような仕草なのに、浮かんできたのはソーダフロートだった。どうして、今、と思う。思考がついていかない。尾形が、笑う。
「激しいのすきですか? 抵抗が止まる」
「ふ、ぅ…っ、」
「あ、イった」
「って、な、ぃ、」
「嘘はだめですよ。イってないならこんな締めないでしょう」
軍曹殿は素直でかわいいですね、という言葉だって、単に尊厳を削るためのそれだろうに。少しずつ、順応していく。肌に、耳に、脳に。尾形の声が浸透して。
「ぁ、………―――ッ、」
「またイった」
「ふ、ぁ…、〜〜っ」
「足ばたつくのかわいいですね。こういうの俎上の魚って言うんでしょうか」
「ぁ、や―――……、ぅ〜…っ」
やだなんて言わないでください、と尾形が髪を撫でていく。最初は触れられた髪なんて全部切ってやろうと思っていたのに、今はそれすら刺激になる。びくびく、と身体が跳ねる。尾形が抑えてなければとっくにベッドから転がり落ちてそうなほどに。
「気持ちよくしてるんですから、気持ちよくなって良いんですよ」
だから、大丈夫です。思考が、手を離れていく。涙が浮かんで、尾形が歪む。ひっきりなしに与えられる快楽が、視界を揺らしていく。
「軍曹殿、抵抗はもう良いんですか?」
尾形が問う。両手で頬をつつむようにして、顔が見たいと笑ってみせる。
「さっきから喘ぎ声しか聞こえませんけど」
腰、勝手に動かすほど気持ちよくなってきましたか? 尾形の言葉が、理解出来ない。視界は揺れたまま、尾形の両手は月島の頬にあって。
「ア、ぅ、んっ、…ァ、」
「もっと奥ですか」
「んっ、ンッ、ぅ………っあ、は、ぅ…」
「そんな足で引き寄せないでもやりますって」
「ア〜〜…っ、う、はぁ…んっ、ん、ん…ッ」
「奥、すきなんですか?」
身体の奥の奥まで塗りたくられるような律動に、思考がどんどんさらわれていく。砂浜に作った城のように。
「面白いくらい締まる…」
まるで軍曹殿が俺のことを抱き締めたいみたいだ、という言葉にも、もう、何を馬鹿なことを、と返せはしなかった。
抱き締めて、しまいたかった。
ずっと、尾形のことが好きだったような気がした。
「軍曹殿、」
気の所為だと、思うのに。思考はばらばらに崩れて、理性だって途切れた。
「キスしても良いですか」
その言葉でまだ唇だけは奪われていなかったな、と思い出す。でもそれは頑なに口を覆い隠していたからだ。縛り上げられた両腕でも、必死に守っていたからだ。
ふわふわと制御を失った身体では、それも出来ない。
「ん………」
やさしく、舌が入り込んでいたぶるように歯が立てられたのに、もう何も分からなくなってその中で、すき、とだけ呟いた。
*
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花畑に坐す
やる気が出ないので、自分でやってみせてくださいよ、と尾形が言った台詞も、それに応えた自分も相当馬鹿なのだと思う。別に男同士でだって変わらなかったと思うが、片方が女体になればその分だけ増えたり減ったりするものはある訳で。まあ簡単に言うと、どうなってもセックスは楽しかった。どうなってもセックスを楽しむだけの余裕が、今世の自分たちにはあった。から、こんなことをしている、というのは接続詞として正しいだろうが、恐らく、何処かの理論は欠如している。どうせ、尾形と月島の、二人だけが分かっていれば、良いこと、なのだろうけれど。
「ふ♡んっ♡」
「はは、えっろ」
ビール片手に野球観戦じゃあないんだぞ、と思うけれどももう、どちらの頭もピンク色になってしまっているからツッコミはいない。突っ込むのは尾形で、その準備をしているのだろうけれど、そんなシモネタはさておき。
「みる、なっ…♡てば、ぁ…♡おれの、胸、なんか見ててもっ♡たのしく、ないだろ…♡」
「胸じゃあないでしょう、軍曹殿。なんて言うんでしたっけ?」
「ぉまえ…っ良い趣味、してるっ♡よな…♡」
「誰かさんの教育の賜物で」
見るなって言われましてもなあ、と尾形が近付いてくる。指がすべって、甲高い声が出た。もう慣れきった声だけれど、改めて聞くと羞恥心が沸き起こる。
「この、ぐりぐりにしてるとこ見られてぷっくりしてるもの、なんて言うんでしたっけ?」
「…ぉ、………♡さっしろ、ょ♡」
「いやはや物分かりの悪いもので…。でも、胸ではないことは確かですよね。胸というのはこんなにも唾液を促進させるような効果はないはずですから」
「んっ♡やめろっ、て♡そうぃう、こと♡ぃうな…♡」
「軍曹殿、教えてくださいよ」
「知ってる、だろ♡」
「分からないから聞いてるんですよ。俺は一体、何を見せられてるんでしょうねえ」
唾液、という言葉を聞いたからか、月島の口腔内にも同じものが溢れる。元々あっただろうが、意識が完全にそっちに向いた。唾液。いつも、尾形がしていることを思い出す。月島がされていることを思い出す。
「お、っぱい、だょ♡前の、男の、おれには、なかったやつ♡」
口の端から、飲み込めきれなかった唾液が言葉と共に溢れ出た。
「おまえに、みられて♡こんなに、なってる♡」
床を、汚していく。それを見て尾形は何も言わない。
「おまえのせー…だから、な♡」
上目遣いをしたら絆されてはくれないだろうか。自分で触っているのだって別に良いが、尾形が目の前にいるのにずっとこれは、苦しいし、さみしい。
「違うでしょう? 軍曹殿」
でも、尾形はもう少し、遊びたいようだった。ビールがまだ残っているのもあるのかもしれない。でも、どうせあって三口のくせに。
「確かにそれはおっぱいですが、アンタがいじくりまわして俺に見せつけてるものは違うだろ?」
「ひ、♡」
「アンタ、そうされるのがイイんですね。覚えておきます」
「やあ♡」
「こういうの、勉強になるから良いですね」
ビールは、多分、あと一口。
期待が指に乗って、ぐり、と力が入った。
「―――ぁ………♡♡♡」
「あれ? イったんですか?」
「ぉ、まえが遅いから♡ビール、一缶飲むのに、どれだけ時間かけてんだよ♡」
「ゆっくり飲みたいくらいアンタがえろかったんですよ」
「ふ、う♡」
最後の一口が喉に消えていって、くしゃり、と缶が少し、潰される。さて、と尾形が向き直る。
「で、これ、なんて言うんでしたっけ?」
「ん、え、♡もう、いいだろ♡」
「アンタが俺にむしゃぶりついて欲しい場所の名前を、ちゃんと言ってみてくださいよ」
「ば、か♡」
記憶が蘇る。期待がせり上がってくる。
「ち、くび♡ちくびだよ♡おまえに見られて、おまえに触ってほしくて♡しゃぶって、歯、たてて♡ぐちゃぐちゃにしてほしぃ♡ところ♡ぉれ、の、っ♡ちくび…ッ♡」
「へえ、」
「お、がた…♡♡♡」
ほら、と胸を持ち上げてみせた。ぴん、と主張する乳首がよく見えるように。こういう時胸が大きくて良かったな、と思う。
「さわって♡」
「淫乱」
「淫乱がすきなのは、おまえだろ♡」
「確かに」
では仰せのままに、と尾形がこうべを垂れる。その後頭部を見ながら、さっさと押し付けてしまいたい、と思った月島はきっと、悪くはないのだ。
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