悪の天秤


 重症ですね、と尾形が再び神妙そうに言う。びくびく、と余韻と期待に揺れる身体では真面なこと一つ考えられそうになかった。重症、確かにそうなのかもしれない。強姦から始まったこの生活で、未だ仕事を取り上げられていないことの方が不思議なくらいだった。尾形はそれなりに稼いでいるので、その気になれば二人くらい養えることは知っている。それでも月島を監禁しないのは、どうしてなのだろう。自分で選んだ生活なのだと植え付けるためなのだろうか。
 脚が下される。
 力を失ったままの月島は、くた、と膝頭を合わせた。起き上がる気力もない。頭がぼうっとして仕方がなかった。いつも、そうだ。尾形といると、思考力が奪われていくような気がする。そうしていた方が、当たり前で、幸せなことのように感じてしまう。
「では、治療の第一段階に移りましょうか」
そう言って尾形は何やら取り出した。男性器を模したそれは何度か使われたことはあるが、いつものものとは違う。透明な窓部分があって、中に何か入っているのが見える。月島の視線がちゃんと向いたのを確認したのだろう、尾形はにこり、と笑ってみせた。
「これは最新の薬でしてね、この先端から出るんですよ。患者さんの身体の奥に打てば打つほど効果が出るものでして」
だからこういう形をしているんですよね、と必要かどうか分からない説明が続く。けれども医者というのは治療の説明をするものだと思うので、月島は頷いた。患者というのは医者の説明を聞くものだろうし、月島は今、患者だったから。
「まあ、…言うところの注射器ですよ。分かりますね?」
「ん…っ♡はい…ぃ♡」
頭はやはりぼうっとしていた。ただ何も考えずにいたい。でも、それが本当に良いことなのか、月島には分からない。
「では、注射していきますね。脚を広げてください」
「………ん♡」
そろそろ、と太腿が開いていく。自分の身体なのに、自分の身体じゃあないように。
 尾形に見せつける形になっても、甘やかな痺れで思考が封殺されていく。よく見えますよ、大変なことになってますね。尾形の声が脳を犯していく。耳を食まれて思考が散り散りになっていく。ぴたり、と宛てがわれた注射器≠ェよく見えた。
「ぱくぱくしてますね」
「ン…っ♡は、ぃ♡」
「そんなに注射して欲しいですか?」
「ん、んっ♡し、て♡くだ、さぃ、♡」
「仕方ないですねえ」
やれやれ、と言った様子で尾形が手を動かした。
「あ…♡は…♡」
「はは、うまそうに食うじゃないですか」
「んっ♡あ、あっ…♡ンンっ♡」
「もっと呑み込みたいって言ってるみたいですよ。これは治療行為なのに…」
「あ…♡んっ♡ごめ、んなさい♡治療、っ♡なのに…ぃ♡はー…んっ、ンッ、きもちよく…♡なってえ…♡」
「本当ですよ。まだ先があるのに、これじゃあ全部治療出来ないかもしれませんなあ」
 困りましたねえ、と言いながら尾形は注射器≠動かす。通常あるはずもない凹凸にナカが擦れる。それに反応して身体が揺れるのが、すべて尾形の目に映っている。
「んっ♡んー…っ♡ぜんぶ♡治療…っ♡して♡くださ…ぃ♡」
「でも、患者さんがこんな様子では。無理をさせるのは良くないですしねえ」
「ぉ…がたっ、♡」
「先生」
「せ、んせー…♡がんばるっ、か、らぁ…♡ぜんぶ♡、なぉ、して…♡くだ…さ、ぃ♡」
月島の声に、尾形はそうですねえ、と考え込む素振りをした。その間にも注射器≠ヘ奥を目指して進み、圧迫感に月島は身を震わせるだけ。
「じゃあ、この注射が全部終わっても患者さんが大丈夫だったら、最後までしましょうね」
「…っ、♡ぜん、ぶ…♡」
「全部、ですよ」
全部、と尾形が繰り返す。
「奥の奥までこの注射器を飲み込んで、一番奥でおくすり全部飲めたら。患者さんの様子を見て決めましょう」
「………♡♡♡は、ぃ…♡」
 ずるり、と奥を目指して進む、注射器≠ェ進みやすいように月島は腰を少し、上げた。

 どれくらい経っただろう。全部、と尾形は言ったけれども月島は入っていた量を知らない。もう何度か注射≠ウれたはずだけれど、終わった、という言葉は聞こえなかった。息ばかりが上がっていく。何度高みに放り出されたのか分からない。腰が勝手に動いては、理性という言葉が輪郭を失っていく。
「軍曹殿、限界ですか?」
だから、尾形の言葉に直ぐ様反応を示すことが出来なかった。
「注射器、空っぽですよ。頑張りましたね」
頭をやさしく撫でられる。尾形には似つかわしくない仕草だ。
「でも限界そうですし、今日はここまでにしましょうか」
「あ…っ♡ゃ、やだ…♡」
月島の声など聞こえないかのように、尾形は注射器≠取り除いた。随分慣れきったそこは注射器≠ェ失くなったことを嘆いているような気がする。
「風呂入りましょうか、患者さん」
「ん…♡っぉ、おがた♡」
「先生」
「せ、んせぇ…♡」
「何ですか」
「つ、づき…っ♡」
言ってる間にも尾形は月島を抱え上げ、そのまま風呂に連れて行く。手慣れた様子なのはこんなことが初めてではないからだろう。好き勝手やっているせめてもの償いか、単純に尾形の趣味なのか、行為後にすべての世話をされることも珍しくない。
 中途半端に着たままだった服を脱がされ風呂場に運ばれる。暖房などはもう入っているようだった。最初からこのつもりだったのかもしれない。尾形の手際が良いのはいつものことだが、これは良すぎるの部類だ。
「せ…、んせぇ…♡」
懇願しても大丈夫ですからね、としか返されなかった。涙が浮かぶ。
「今日はこれで終わりですからね」
「ゃあ…♡たりなぃっ♡」
「薬は全部飲めたじゃあないですか」
頑張ったのでもう良いんですよ、と尾形の指が腹に触れる。
「此処の、一番奥で。ちゃんと飲めたじゃないですか」
「…ッ♡♡♡」
 身体の奥に、こういった遊びでもないと使わない場所に。薬≠ェ入っている。考えただけで脳が沸騰しそうだった。こんなときでなければ使わないのは、月島が拒否しているからで、尾形がそれをきちんと配慮してくれているからなのだけれど。
「う…♡」
「ね? 患者さん。もう良いんですよ」
「ぁっ…♡」
くるくる、と臍の辺りを廻る指に情欲の焔がいたずらに揺らめかせられる。渦巻いたそれが理性を完全に壊すまでそう遠くない。
「ゃ…♡あ…ッ♡」
未だ壊れていないのかと、これを壊れていないと言って良いのかと、そんな声が聞こえるような気がするけれど。
「―――、ぁ♡」
臍にぐり、と指が入れられて、そうなってしまえば最後に残っていたものもぷつん、と弾け飛んだ。
「ぉが、たのっ♡じゃな、ぃ、と…♡や、っだ…♡」
「ん?」
「せ、んせー…の、っ♡ぃ、れて…♡♡♡」
 必死で伸ばした手が触れた先には熱がある。ずるずると撫でても尾形の表情は変わらない。こんなに欲情しているくせに、欲情してるからこそこんなごっこ遊びをしてるくせに、涼しい顔をしてみせる。月島の身体をつくりかえたくせに、責任なんて微塵もなさそうな顔で責任を取るなんて言うのだ。
「そんなに欲しいんですか?」
「ん♡ん♡…ほ、しぃ♡」
風呂に入ると言って自分は脱いでいないのだから、月島が言うことなんて最初から分かっているだろうに。じゃあ、と耳が食まれる。浴室に声が反響している。
「ナカに入れたの、全部掻き出したら本物挿れてやるよ」
「う…ぁ♡」
「軍曹殿はオモチャで満足ですか? 寂しいですなあ」
「ん、ン…♡そんな、こと♡なぃ、からぁ…♡」
浴槽のふちに座らせられる。間違っても滑り落ちないようにだろう、尾形が正面から支えた。
「ほら。脚広げて」
「………ふ、っぅ、♡」
浴室の床に座っている形である。そんな状態で脚を開けば、尾形の視線が何処に行くかなんて考えるまでもない。
 でも。
「俺にちゃんと見えるようにしてください」
「ん…♡」
もう千切れた理性は戻って来ない。するする、と脚が開かれる。尾形に、どろどろに蕩けた場所を見せつけるように。
「はは、治療したあとには見えねえなあ」
「ぅっ、ン、♡」
「ぐちゃぐちゃのとろっとろで、まるでセックスしたあとみたいだ」
「ン…♡」
まるでも何もその最中なのだけれど、これはそういう遊びなのだからどうしようもない。ほら、遣り方分かりますよね、と言われて指を持ち上げる。掻き出すためにはナカに入れなくてはいけない。散々焦らされてぷっくりと膨れた場所に、触っている暇などない。
「んっ♡ン…っ♡」
「そんな動きで掻き出せると思ってんですか? 軍曹殿の言うそんなことない、ってその程度ってことですか」
「あ、ぅ…♡」
叱られるようにして指の動きを速める。そうしていれば触れたかった場所に指は触れるもので、意識はそちらに持っていかれる。
「ン―――、♡♡♡っ、ア、♡」
「俺は掻き出せって言ったんですよ。オナニーしろとは言ってねえよ」
「んっ♡あっ♡して、な、い♡」
「じゃあなんでそんなにびくびくしてんですか? 透明なのはアンタのですよね? そのためにちゃんと白いの買ってきたんですから」
「ンン…っ♡」
「全部出せないなら続きは無理ですなあ」
「ぁっ、う、♡がんば、る♡か…らっ、♡」
支えられているのだから、と両手を使うことにした。両側から指を入れる。
「み、♡てて♡」
拓くように、見せつけるように。
「ぜ…んぶ♡だす…♡からっ♡」
とぽ、と白い液体が落ちていく。浴室の床が汚れていく。
「ちゃん、と…♡さぃ、ご、まで…♡し、て…♡」
 その言葉に尾形はやれやれ、という顔をしてから、仕方がないというように頷いた。

 嬌声なのか泣き声なのか、もう分からない。膨らんでいたように見えた肚はもとのぺたん、としたかたちに戻っていた。
「お、がたぁ…♡ぜんぶ♡でた♡」
「本当ですか?」
「ほんとぅ…♡」
「じゃあ確かめますね」
ずい、と尾形の顔が前へと出る。鼻先がつくほどに。今更手で覆い隠すようなことはしなかったけれど、羞恥は身体に染み付いていて、はく、と悲鳴のように隠れたがる。
「軍曹殿、目視しなきゃいけないんですから邪魔しないでくださいよ」
「う♡」
「それとも目視じゃ無理なんですかね?」
「ゃ、あ…♡」
「またそうやって邪魔して。軍曹殿は手がかかりますなあ」
「ぅ、う…♡て、かかって、わる、い♡」
「本当ですよ、患者さん。こんな手のかかる患者初めてです」
ゆっくりと、尾形の指がナカに入ってくる。拓いて、確認するように。月島の言葉に嘘がないのか。その振動だってすべて、毒だ。確かに白いのは見当たりませんね、と尾形が呟く。
「しかし、折角入れた薬なのに…出してしまうなんて悪い患者さんですね」
「ぅ………♡♡♡」
「これじゃあ特効薬が必要かもしれませんね」
「あ♡は♡んっ…♡せ、せんせーに、しんさつ♡して、もらわなぃと…♡しんじゃう、かも、しれない♡からっ♡」
特効薬≠ニいう言葉に身体中がざわめき出す。歓喜の音。もう、覚えている。あの快楽を、どうしようもない絶頂を。
「とっこー…やく♡ぅって…♡くだ、さいっ♡」
 媚びるように、猫のように。そんなことを言われていたのは尾形の方だったはずなのに。
「せんせー…、しか♡できな、ぃ、やつ…ぅ♡」
腰が動けばぐるり、と尾形の指がナカで蠢いた。自分では得られない感覚がぞわ、と背筋をなぞっていく。
「こ、こ♡にっ♡とっこー、ゃく♡ぅ、って♡」
拓くのを補助するように、指を充てがって。
「せんせー、のっ♡せんせー、だ、けっの♡」
 どろどろに蕩けた、ナカを、見せつける。
「………あんまり患者さんに無理させるのも、なので。患者さんが無理ない程度で、自分で動いてもらう方が良いですかねえ」
「ん…ッ♡は、ぃ…♡」
「とりあえず風呂上がりましょうか。シャワー流しますよ」
「え…♡は、ゃく…♡」
「シャワーだけですから」
ね? と首を傾げられてしまえば、もう、月島にはそれ以上は言えなかった。

 再びベッドへ連れられて、それから尾形がやっと服を脱ぐのを眺めていた。
「欲しいならやってくれますよね?」
渡されたパッケージを破って、慣れきった仕草で準備をする。こんなに欲情しているくせに、月島の所為なのに、尾形は何でもない顔を続けるのだから非道いと思う。手の中が熱い。それが嬉しくてたまらない。
「ぅ、♡う♡す、き…♡」
「身体目当てとは泣けますなあ」
「ん♡ぇ、…う、♡」
「軍曹の素直なところ、本当に好きですよ」
―――未だ。
 尾形のことを好きだと言えないのは、可笑しいのだろうか。こんなにつくりかえられてしまったのに、それでも尚、奥底が正しさを欲している。
「ほら、俺の肩に手、ちゃんとついて」
「ん…♡」
「はは、内腿までぐしゃぐしゃじゃねえか」
「ゃ、だってぇ…♡じらす、からぁ…♡」
「俺は患者さんの身体を慮っただけなのにそういうことを言うんですか?」
「ぅ、う♡」
「まあ良いですけどね」
治療を続けましょう、と尾形が言う。自分で調節したものが、待ち遠しくて涙がこぼれる。
「あ………♡…は、♡」
もう尾形のかたちになってしまっている月島のナカは、いとも簡単に特効薬≠飲み込んだ。ぱちぱち、と思考が弾ける。腰が覚えている、とでも言うようにぐりぐり、と前後に揺れる。
「せんせ♡ぁッ♡すご…い♡とっこー、ゃく…♡きいて、るッ♡」
「そうですか。それは良かった」
「ぁ、は♡ぉがた…♡きもち、い…♡」
さっきまで注射器≠フあった場所が、尾形に塗り替えられていく。いつもの感覚が戻ってくる。嫌、だったはずなのに。それももう、思い出せない。身体すべてで尾形を欲している。与えられる快楽に、順応している。
「軍曹殿」
「んっ♡ンッ♡」
「気持ちよさそうですね」
「ぅ、ん…♡あ、ぅ♡き、もち…♡ぃ、い♡」
 締まりなく放置されている口元から唾液かこぼれ落ちた。ずん、と痺れ渡るような快楽についていけない。なんとか尾形の肩を掴んでいるだけで精一杯だ。
「くす…りっ♡より、♡ぉく、♡」
「はあ、それならよかった」
「ぁっ♡………もっ、とぉ♡」
「アンタが動くんだよ」
「わ、♡ゎかって、る…ッ♡」
腰が、溶けていく。このまま尾形とひとつになれそうな、そんな気すらしてしまう。
「あ―――〜♡…っ、ン、………♡♡♡」
「はは、すげえ顔してますよ。軍曹殿」
「ンッ、♡ぁ、あァ♡♡♡っ♡♡♡」
「発情しきった雌の顔」
「ふ♡だ、ってえ…♡ぉ、まえ…が、そー…っ♡し、たん、だ…ろ…♡ッ〜〜〜♡♡♡」
「そうですね、俺の所為です」
「は♡っ、ン、♡ぉ、ま…ぇが♡ぜ、んぶっ、ゎる、ぃ…ッ♡♡♡」
こん、と尾形が動いた。
「―――〜♡ッッッ♡♡♡」
それだけで自分だけではどうしたって得られないものが押し寄せる。
「ぁ…♡は…♡」
「突き上げられるの嬉しいですか」
「ん♡ぅれ、し…ぃ♡」
「もっとしましょうか?」
「ぅ、ん♡もっ、と…は、ぁん…ッ♡し、て…♡」
腕を必死に尾形の首へと持っていく。縋るように、キスをする。
「ぜん、ぶ♡なぉ、して………っ♡♡♡」
 自分のその言葉が壊して、に聞こえたなんて、気の所為なのだ。



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君の中に残れるならば憎しみだってなんだっていい


 最初に見た時、思ったのは何故か、逃げられてしまう、ということだった。実際にその直感は正しかったのでちゃんと動いた自分のことを尾形はそれなりに褒めているのだけれど。
 あまりにも真面に生きることが出来るように生まれてしまった身体を、叱咤することは簡単だった。この人を失わないためなら尾形はずっとずっと非道くなれる。前世では非道いなんて感じなかったことをそう感じて、それでも実行してしまえる。震える身体を抱いて尾形のかたちを教え込んで、何が本当なのか分からなくして、自分で選んだのだと思わせる。
―――月島が、尾形を。
選んだのだと、そう信じ込んでいるのなら、月島は意見を翻すことすら出来ないと知っていた。魂の構造、なんてそんなことを言えばそれこそ頭が可笑しくなったと言われるだろうが、尾形は月島がそういう魂の構造をしていることを知っていたのだから。
「軍曹殿」
 貪るようなセックスのあと、ふわふわと意識を揺蕩わせている月島にキスをする。
「アンタが俺を選んでくれて、本当に嬉しいですよ」
―――逃げないでいてくれて、逃げ方を忘れてしまって、本当に嬉しいですよ。
そう思っているから絶対に手放してなるものか、と思っているのだということはきっと聞かれないので説明もしないのだろう。



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